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有森裕子【第3回】プロランナーになったことが現在の私の活動につながっている – 人を成長させるのに大切な要因とは

有森 裕子

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現在の活動に繋がるプロランナーに転向した直接的な動機、そして自身の原動力についてをお話しいただきました。

今だから、現役時代のことを客観視できる。今だから、言葉で表現できる。無名選手だった有森裕子が2回のオリンピックメダリストになれた理由、そして、現役時代が今の活動にどうリンクしているのかを振り返りながら、「人を成長させるのに大切な要因」について考える。

(※本記事は、2014年1月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。記事中の年齢、肩書きなどは2014年取材時のものです。)

プロランナーになったことが 現在の私の活動につながっている

私が小出監督のもとを離れてプロランナーに転向しようと思った直接的な動機は、「日本のスポーツ選手を取り巻く環境」を根本から変えたかったからです。海外レースを通して世界中のトップ選手と出会う中で、海外と日本の環境があまりにも違うことを知り、その状況を変えたくなった。

日本のマラソンランナーは、トップ選手といえども、実業団に所属しながらチームを主体にしたトレーニングをしていかなければならない。これに対して、海外のトップ選手は、個人を主体にしたトレーニングをしている。また、実業団に所属していると、数多くの駅伝に参加しながら国内の主要レースを走り、最終的な目標がオリンピックという流れに沿って活動していかなければならない。これに対して、当時、活躍していたロサ・モタ(ソウルオリンピック金メダリスト)、エゴロワ(バルセロナオリンピック金メダリスト)といった海外のトップ選手は、ボストンマラソンやニューヨークシティマラソンといった賞金レースを視野に入れて活動している。そして、この賞金などを元手に、アメリカのボルダーなどで高地トレーニングを行うといった理想的な環境をつくっていたのです。

わかりやすくいえば、「世界レベルで見て、普通のトップランナーになること」が私の目標でした。この選択は結果的に、それまでの日本の社会人スポーツ界の在り方そのものへ異を唱えることでしたから、当時は大きな反発も受けました。でも、この選択をしたからこそ、現在、私が活動の拠点にしている「RIGHTS.」が生まれた。そして、RIGHTS.が成長したことで、私が現役時代に理想と考えていたサポートやマネジメントを数多くのスポーツ選手に提供できるようになりました。

また、現在の私は、スポーツ以外の分野でも、目標に向かってがんばっている人、がんばりたいと思っている人をサポートしたいと思い、RIGHTS.や代表理事を務めるNPO法人Heats of Gold等を通して取り組んでいます。

このような活動から、スポーツ以外の分野でも、人の成長に欠かせない大切な要素は、「言葉」と「情熱」だと改めて感じます。言葉と情熱を注ぐには、エネルギーが必要であり、丁寧に相手と向き合っていくしかない。これは大変なことですが、だからこそ、やりがいのある仕事といえます。そういう意味では、日々、人材教育に関わり、社員の成長を支えている皆さんは、とても幸せな仕事をしているように私は感じます。

「悔しさをバネに」して 無名選手がメダリストになった

最後に「私の現役時代のモチベーションの原動力」にも触れたいと思います。結論から先にお話すると、私のモチベーションの原動力は、常に「悔しさ」でした。「悔しさをバネに結果だけを追求してきた」、それが有森裕子という選手です。

私は生まれつき股関節脱臼だったため、ランナー向きの体ではなかった。でも、このハンデがあったからこそ、人よりもがんばることができました。

実業団に入ってからも、周囲がエリート選手ばかりだった環境で、無名選手だった私は「いつか見返したい」という悔しさによって、人より練習することができた。実業団に入った後に分かったのですが、私は選手としてではなく、マネージャー要員として採用されていたのです。それくらい評価の低い選手でした。

実業団に入ったとき、私自身、国体に出られればいいという目標しかなかった。オリンピックに出る、しかも、メダリストになるということは、夢のまた夢でしかなかった。悔しさをバネにすれば、人は大きく成長できる。楽しさが生むエネルギーもあると思いますが、悔しさがつくるエネルギーも相当なものです。

バルセロナオリンピックで銀メダルを獲った後には、さきほども触れた通り、マラソンランナーの練習環境を変えたいと思いましたが、周囲から反発を受けて悔しい想いをするだけだった。自分の意見を聞いてもらうためには、何色でもいいからもう一度、オリンピックメダリストになるしかないと考えました。この悔しさがアトランタオリンピックの銅メダルにつながった。

「過程が大事であり、それを楽しもう」といった夢のあるお話ができればいいのかもしれませんが、嘘がつけない性格なので……。私自身の体験でいえば、そういった感覚は一切ありませんでした。現役時代、私は走ることが嫌いだった。それでも過酷な練習に耐えられたのは、走ることは自分にとって仕事であり、結果を出すことにこだわっていたからです。

結果を出すことにこだわるというスタンスは、現在も同じです。今の私は、自分がやりたい仕事をできていますが、楽しければいいとは思いません。あくまでも、結果や周囲の評価ありきです。

確かに過程も大事かもしれません。でもビジネスだって、何の結果も出さずに「過程が大事だよね」と言える現場はないはずです。一生懸命やった、がんばった、でも何の結果も出せていない。それで評価してくれる環境はないはずです。会社であれば、お給料と活躍する機会をもらっていて、結果にこだわらないというのはありえない。やりたい仕事をしたいと考える前に、まずは結果を出すこと。結果を出すことからしか現実は動かせません。

スポーツを趣味でやっていたり、ライフワークとして何かの活動をしていたりするなら、過程を楽しむことが大事だと思います。でも、これらと仕事はきっちり分けて考えるべきです。すべて結果という考え方は悲しい、と感じる人もいるかもしれませんが、結果ありきの厳しい環境そのものを楽しめばいいと私は考えています。

「人を成長させるのに大切な要因とは」(了)

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