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坂本光司【第2回】ESなくして、CSなし – 企業経営の真の目的は、「人を幸せにする」ことです。
企業経営の真の目的は、「人を幸せにする」ことです。
「経営者がいちばん大切にすべきなのは、社員とその家族です。」
著書『日本でいちばん大切にしたい会社』シリーズが累計65万部を突破。これまでに7000社以上の企業を訪問し、調査を実施している法政大学大学院の坂本光司教授に、企業経営の在り方、優良企業の共通点、人材育成に必要なモノサシなどをうかがった。
岩崎知佳 ≫ インタビュー 櫻井健司 ≫ 写真 田村知子 ≫ 文
(※本記事は、2015年7月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
ESなくして、CSなし
―「人を大切にする」というと、お客様のことをいちばん大切に考える企業も多いように感じます。
顧客ももちろん大切です。ただ、役割が違うんですね。経営者がいちばん大切にすべきなのは、社員とその家族です。その前提があったうえで、社員が大切にすべきなのが、顧客であり、ともに働く仲間です。顧客が大事だからこそ、その顧客に感動的な商品やサービスを提供する社員、そして、社員を支えている家族が大事なんですね。
経営者が社員やその家族の幸せを守らずして、社員だけに顧客を大切にしなさいと言っても、それは無理な話です。社員が自分の幸せを感じられずに、顧客の満足度だけを考えていたら疲弊してしまいますし、家族の命と生活が守られていると思えなければ、全力で仕事に打ち込むこともできないでしょう。「ES(社員満足度)」なくして、「CS(顧客満足度)」です。
―先生はご自身でも7000社以上の企業を訪問して調査をされたり、「『日本でいちばん大切にしたい会社』大賞」を創設して、人を幸せにする「正しい経営」をしている企業を表彰されたりしています。そうした活動の中で、日本企業の良い点や改善すべき点を感じることはありますか?
それは企業によってそれぞれ違うので一概には言えませんが、業績の良い会社と悪い会社の違いはありますね。
業績の良い会社の共通点はやはり、どんなことがあっても社員と家族を大切にしていること。また、障がいのある方や働く意欲のある高齢者を積極的に雇用していることです。それが軸にあって、「年輪経営」「バランス志向」「市場創造型」といった共通点も見られます。
「年輪経営」とは、景気や流行を追って急拡大せずに、着実な経営をしていること。景気や流行のいたずらを千載一遇のチャンスとばかりに設備投資や人材採用を行えば、いずれは必ず崩壊します。
「バランス」とは、1つの商品に集中することなく、他の商品も備えてバランスを取っていること。近年はイノベーションが活発ですし、生産拠点が海外に移管されることもあります。バランスを欠いていては、1つの商品が立ちゆかなくなった時に、社員やその家族を路頭に迷わせることになる。バランスを取るには、管理費などの費用が余計にかかりますが、企業が存続しなければ、社員が不幸になってしまうわけですから、そこを惜しんではいけないのです。
「市場創造型」とは、感動的な新しい価値を創造し続けていること。寄らば大樹の陰で周囲や環境に依存せずに、顧客が求めている商品やサービスを提案していることです。そう言うと、業績の悪い会社では「新しい価値を創造する担い手がいないんです」と言う人がいますが、いないと思うのなら、育成したり、採用したりすればいい。正しい経営をして、世のため人のために尽くしていれば、いい人材はいくらでも集まるはずです。
実際、企業理念に「社員の幸せ」を掲げている60人規模のある会社では、毎年約3万人の学生から応募があります。採用するのは2~3人ですから、一部上場企業よりも倍率は高い。会社の規模も関係ないという証ですよね。
プロフィール
坂本光司(さかもと・こうじ)
法政大学大学院政策創造研究科教授。同大学院静岡サテライトキャンパス長。NPO法人オールしずおかベストコミュニティ理事長。人を大切にする経営学会会長。「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長。その他、国・県・市町・産業支援機関の公職多数。専門は中小企業経営論・地域経済論・福祉産業論。これまでに約7000社の中小企業を訪問し、調査を実施している。ベストセラー『日本でいちばん大切にしたい会社1・2・3・4』(あさ出版)をはじめ、『「日本でいちばん大切にしたい会社」がわかる100の指標』 (朝日新書、共著)、『21世紀をつくる 人を幸せにする会社』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、共著)など著書多数。
※2015年7月1日当時のプロフィールです。