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前田鎌利【第2回】相手に伝わるプレゼン資料作成のポイント
相手に伝わるプレゼン資料作成のポイント
「資料作成のノウハウと、仕事に込める魂。その両方を充実させる」
プレゼンテーション能力は、現代のビジネスパーソンにとって欠かせないスキルだ。高ければ高いほど、取引先を説得して新規案件の受注を得たり、上司や同僚をうまく巻き込んでプロジェクトを前進させることがたやすくなるからである。そこで今回は、ソフトバンク時代に孫正義氏の社外プレゼン資料作りを担当し、現在は年間200社を超える企業でプレゼン研修や講演を行っている前田鎌利氏に、聞き手の心を動かし、プレゼンを成功に導く資料の作り方を訊いた。
白谷輝英≫ 文 櫻井健司≫ 写真
(※本記事は、2020年1月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
前田鎌利(まえだ かまり))
株式会社 固 代表取締役、一般社団法人プレゼンテーション協会 代表理事
1973年福井県生まれ。東京学芸大学卒業後、通信業界でキャリアを積む。
2010年、ソフトバンクグループが創設した後継者育成学校「ソフトバンクアカデミア」の第1期生に選ばれ、プレゼンテーションで第1位を獲得。さらに、孫氏の社外向けプレゼン資料づくりも担当した。その後、ソフトバンク子会社の社外取締役やソフトバンク社内認定講師(プレゼンテーション)として活躍した後、2013年に独立。現在はさまざまな企業で講演・研修を行うかたわら、書家としても活動。2018年には一般社団法人プレゼンテーション協会を設立し、代表理事も務めている。著書に『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』(いずれもダイヤモンド社刊)など多数。
資料をレベルアップさせる鉄則とは
説得力のあるプレゼン資料を作るためには、たくさんのノウハウがある。そのうちのいくつかをご紹介しよう。
①1枚のスライドにグラフは1つまで
1枚のスライドに複数のメッセージを盛り込むと、聞き手はどうしても混乱してしまう。そこで、1枚のスライドには1つのメッセージしか盛り込まないというのが大原則だ。
「同じことはグラフにも言えます。図4では1枚のグラフに『実績』と『達成率』の2要素を盛り込んでいますが、これでは相手が理解できるまで時間がかかってしまいます。そこで、図5のように2つのスライドにわけましょう。すると、聞き手はすっと理解でき、メッセージが伝わりやすくなるのです」
②キーメッセージは13文字以内
プレゼン資料に入れる文章は、できるだけ短くすること。ダラダラとした文章を読ませると聞き手はスライドを追うことに集中し、プレゼン中に語りかける言葉のインパクトが薄れてしまうからだ。
「人が一度に知覚できる文字数は、最大で13文字程度だと言われます。これを超えると、意味がすっと頭に入らなくなるのです。ニュースサイトの『Yahoo!ニュース』では、見出しの文字数を13文字までにしていますが、同様にスライドの中で一番伝えたい『キーメッセージ』についても13文字以内の短く強い言葉にしましょう」
③基本のフォントはゴシック体
プレゼン資料で使うフォントは、ゴシック体と明朝体に大別される。このうち、基本となるのはゴシック体だ。とくに広い会場の場合は、できるだけ読みやすくなるようにゴシック体をメインに資料を作成したほうが良い。
「私がパワーポイントでプレゼンする場合、キーメッセージはインパクトがあって読みやすい『HGP創英角ゴシックUB』を使用します。また、それ以外のテキストは、キーメッセージとの違いが明確で読みやすい『MSPゴシック』です。
ただし、状況によっては明朝体のほうが効果的なケースもあるでしょう。たとえば、図6のようなネガティブなメッセージは、ゴシック体より『明朝体(赤字)+写真(モノクロ)』のほうがインパクトを与えられます」
④グラフは左、文字は右に入れる
人の右側の視界からの情報は左脳に、左側の視界からの情報は右脳に影響を与えている。そのため、グラフなどのビジュアル要素をスライドの左側にレイアウトすると、ビジュアル処理が得意な右脳に届きやすくなって、説得力が増すという。
「図7のように、グラフの上下に文字を入れるパターンはよく目にしますが、これは良くない配置。図8のように、グラフを左、説明文を右に入れるほうがベターです」
誌面で紹介したノウハウは、前田氏が研修などで教えているもののごく一部。だが、これらを知るだけでも、資料づくりのスキルはグンとレベルアップするはずだ。
ノウハウと”魂”の両方が大切だ
プレゼン資料の作成スキルを磨くためには、「場数を踏むことが大切だ」と前田氏は語る。
「プレゼンをする回数が増えるほど、全精力を費やして資料作りにぶつかる機会も増えます。それが、あなたのスキルを伸ばします。まずは自ら意識して、多くのプレゼンに携わってほしいですね。また、企業のウェブサイトなどではたくさんの社外向け資料が公開されています。これらと読んでみると、資料づくりのヒントが得られるはずです」
また、プレゼンは相手あってのもの。聞き手の立場や考え方、企業風土などにあわせて資料を変えることも大切だ。そして、前田氏がもっとも強調しているのが、小手先のテクニックに頼りすぎないこと。
「資料作成術を知れば、プレゼン成功の可能性は確かに高まります。ただ、それが成功するかどうかをもっとも左右するのは、結局のところ、語り手の”魂”なのではと私は思うのです。
プレゼン成功後、多くの場合はプレゼンの語り手が中心となってプロジェクトを進めることになります。もし、プレゼンでのアピールがうわべだけで、本当はその仕事に乗り気でなかったとしたらどうなるでしょう?おそらくプロジェクトは推進力を失い、失敗に終わるのではないでしょうか。
ですから、プレゼンの前には自分の仕事の意義や果たすべき役割について、繰り返し自問自答することが重要です。『なぜこの提案をするのか』『自社は顧客にどんな価値を提供できるか』『私は仕事を通じ、社会にどう貢献できるか』などをはっきりさせ、納得できれば、必ずプレゼンにも好影響が出ます。あなたの信念や本気さが聞き手に伝わり、心を動かすことができるのです。
資料作成のノウハウと、仕事に込める魂。その両方を充実させることが、プレゼン成功の鍵を握っています」
前田鎌利-相手に伝わるプレゼン資料作成のポイント(了)