働き方・生き方

MANAGEMENT AND BUSINESS マネジメント・経営

平井嘉朗 – 管理職の役割は「管理」ではなく「働くことを愉しむ」ことだ

平井嘉朗

  • Facebook
  • Twitter
  • Google+
  • はてなブックマーク
  • Linkedin

【コラムジャンル】

, ,

2024年09月20日

管理職の役割は「管理」ではなく「働くことを愉しむ」ことだ

良い管理職になろうと考えたとき、多くの管理職は役立つマネジメントスキルを身につける方向にいきがちだ。しかし知識やスキルより、部下の心に灯をともして自走する力を育て、「人としての器」を広げる力の方が上司には求められるのだと、かつて株式会社イトーキの人事部長や代表取締役として大胆な組織改革を進めた平井嘉朗氏は指摘する。ご自身の管理職経験をふまえ、管理職に求められる姿勢や考え方について語っていただいた。

 

(※本記事は、2024年9月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)

白谷輝英 > 文 波多野 匠 > 写真

平井嘉朗(ひらい・よしろう)

澤田匡人

オープンワーキング株式会社 代表取締役
1961年、東京都生まれ。関西学院大学経済学部卒業後、株式会社イトーキに入社して営業畑を歩む。1995年に労働組合専従となり、労働組合委員長を務めた後、2002年に販売課長へと転じた。2009年に人事部長として抜本的な人事制度改革を進め、その後は執行役員などを経て、2015年に代表取締役社長就任。2023年に株式会社イトーキを退社し、『イキイキと「はたらくを愉しむ」人々が溢れる企業と社会の実現』をVisionに、異業種が学び合うプラットフォーム、オープンワーキング株式会社を設立。https://www.open-working.co.jp/

マネジメントは指導・育成よりも成長支援

私は大学を卒業してからオフィス家具や空間・環境づくりを手掛けるイトーキに入社し、10年以上にわたって営業職を務めました。その後は労働組合の専従を4年、本社スタッフを3年経験し、40歳を過ぎてから営業部門に復帰。このとき販売課長を務めたのが、私にとって初めてのマネジメント経験です。

課長を命じられたばかりの私は、自らの知見を部下に伝えて売上を伸ばそうと意気込みました。ところが私が営業を離れていた7年の間に、市場環境や営業のやり方がガラリと変わっていたのです。そんな中でスピーディーな判断を求められるわけですから、部下からの提案を「それでいいんじゃないかな」と受け入れるしかありませんでした。それで当時は、管理職として役に立っている手応えが全く感じられませんでした。

その後、人事部長などに転じて別角度から部下との関係性を捉えるようになったことで、私のマネジメントに対する認識は変わっていきました。それまでの私は、「マネジャーは部下を管理し指導する立場だ」という思い込みが少なからずありました。それが徐々に、部下が持つ実力を存分に発揮させることの方が、マネジャーとして大切な仕事なのではないかと気づきはじめました。

今振り返ると、販売課長時代の私は、「管理職たるもの、より高い視座で常に指導的な役割を果たさなければならない」という固定観念が強すぎていたような気がします。そのため適切なアドバイスができずに悩んでいましたが、その分、営業現場で部下と向き合う際は、彼らの意見をしっかり聞いて出来るだけ尊重していました。そのことは結果的に部下の主体性を育むことにつながり、その意味ではあの頃の私はそれほど悪くない管理職だったのかもしれません(笑)

マネジメントとは、必ずしも「高い視座で指導、育成する」ということではなく、ましてや「正解に導く」ことでもありません。むしろ部下の成長を支援するというスタンスでいることが、今ではとても重要なことのように思います。

部下を「自走する力」を備えた人材にする

我々は部下にどのような成長を遂げてもらいたいのでしょうか?
言われたことをしっかりとこなしてもらうことも大切ですが、私は「自走する力」を身につけてもらうことの方がもっと大切であると考えています。

「自走する力」とは自分の心で感じて、自分の頭で考え行動する力であり、リーダーシップの基本と考えています。リーダーシップを発揮できるのは、組織の中で高いポジションに就いている人に限りません。新入社員にもリーダーシップを発揮することは出来ます。役職に関係なく自らの意思で行動することはとても大切なことです。そうした「自走する力」を備えた人材がこれからの日本企業や日本社会を切り拓いていきます。

管理職の中には、部下の眼前にレールを敷き、その上を走らせようとしたがる人がいます。このやり方は、短期的な成果を出すのには向いているかもしれません。しかし、命令されて動くことに部下が慣れてしまうと、「自走する力」はいつまでたっても身につきません。

部下の「自走する力」を考える時に、一度上司自らの「自走する力」と向き合ってみてください。意外と会社が敷いたレールを自ら歩んでいたり、前例を踏襲していたり、実は誰かの意見を選択して行動したりしているだけではないかと気付かされるかもしれません。その気づきは、本当のマネジメント力を身につける大事な一歩になると思います。

管理職は本気で自らの「仕事観」を見つめ直してほしい。上司の想いや熱量が部下の心に灯をともし、それが自走の源になる

管理職は本気で自らの「仕事観」を見つめ直してほしい。上司の想いや熱量が部下の心に灯をともし、それが自走の源になる

 

上司の「仕事への想い」が部下の心に灯をともす

では、上司はどうやって部下の「自走する力」を引き出せば良いのでしょうか。
「管理職になりたくない」社員が増えていると聞きます。上司がイキイキと働いていない姿を見てそう思うのでしょう。 「会社とはこういうものだ」「所詮仕事だから」「上が決めたことだからしょうがない」……上司のこんなメッセージが部下のやる気と主体性、創造力を削ぐのです。

そこで管理職の皆さんにお勧めしたいのが、自らの「仕事観」を見つめ直してみることです。

「自分は何のために働いているのか」
「何が自分の仕事の魅力なのか」
「自分はどんな仕事をしていると一番イキイキとしているのか」
「自分は仕事を通じて何を実現したいのか」

あらためて自らと本気で向き合って欲しいのです。その上で「部下の皆さんと共にこんなことを実現するのが自分の夢なんだ」「今自分たちのやっている仕事はこんなに素晴らしいんだ」と部下の皆さんに語ってみてください。語る内容は格好良いものでなくてもいいです。もし部下に伝えたい確固たるメッセージが今は見つけられないとすれば、逆に部下の「仕事観」を問いかけてみるのです。そのやりとりが部下にとっての「管理職の魅力」や「仕事の夢」につながると思います。上司の想いや熱量が部下の心に灯をともします。その灯は部下の「自走する力」の源です。

働くことを愉しむ

私は昨年、オープンワーキング株式会社という会社を設立しました。様々な企業の社員の方々が集まってコミュニティを作り、企業や自分自身の枠を超えて、参加者同士が共に学び合い挑戦する7ヶ月間で、セルフリーダーシップ(自らを望む方向へ率いていく力)を開発していきます。そんな「個の成長」を「組織の成長」へとつなげることを目指しています。

1つの会社で長く勤めていると、知らず知らずのうちにその企業の文化や風土に染まり、モノの見方や価値観が凝り固まっていきます。さらに、役職が上がり上司や同僚から注意される機会が減ると、自らの考え方が一番正しいという思考から抜け出しづらくなるのです。すると部下に自らの意見を押しつけ、彼らの成長を阻害する上司になってしまいます。歴史や伝統のある企業ほど、そうした状態に陥りがちです。
こうして「仕事とは指示されるもの」「上司の考えに沿って仕事をすればいい」という受け身の社員が再生産されていきます。このような「井の中の蛙集団」になることを避けるには、自分と異なるモノの見方や価値観を持つ人と積極的に交わることがとても重要です。

私は管理職にマネジメントの知識やスキルが不要だとは思いません。職場で結果を出すために身につけなければならないことはいくつもあります。しかし、知識やスキルという武器を身につけても、使いこなす「人としての器」が小さければ折角の知識やスキルを上手く活かすことが出来ません。「人としての器」といってもそんなに大げさなことではありません。様々な固定観念から自らを解放し、自分の古いモノの見方とその限界に気づいて、新しいモノの見方に心を開いていく。そうした柔軟でオープンな心で行動していくことで、少しずつ「人としての器」は拡大していくのだと思っています。

色々と申し上げてきましたが「成長を支援するスタンスで向き合う」「自走する力を身につける」「自らの想いや情熱で心に灯をともす」「新しいモノの見方で人としての器を広げる」これらはマネジメントという役割の魅力であり価値です。こうした役割を担えるのが管理職なのです。私はこれらを全て一言でまとめて「働くことを愉しむ」と表現しています。

管理職の仕事は決して「楽」ではありません。日々辛いと感じることもありますが、これらは全て捉え方次第です。マネジメントを「愉しむ」という捉え方が出来れば、管理職は部下と喜びを分かち合い、自らも大きく成長できるとても素敵なステージです。

 

平井嘉朗

講師への講演依頼はノビテクビジネスタレントで!

RELATED ARTICLE -関連記事-

会員登録 (無料)
ノビテクマガジン 無料購読
いただけます

会員登録 (無料) で、
ノビテクマガジンを
無料購読 いただけます

会員登録はこちら

会員特典

・雑誌(定価780円)の 無料購読。

・主催講演会に 特別価格で参加。

その他、著名人講演会の情報も!

ノビテクマガジン倶楽部の
ご案内
  • MEETING SPACE AP 株式会社TCフォーラム

    MEETING SPACE AP 株式会社TCフォーラム
  • 講演依頼/講師紹介 nobetech BUISINESS TALENT ノビテクビジネスタレント

    講演依頼/講師紹介 nobetech BUISINESS TALENT ノビテクビジネスタレント
  • nobetech magazine

    人と組織の成長を応援するノビテクマガジン
  • 株式会社ノビテク

    株式会社ノビテク
  • 特集一覧 – 講演講師コラム 

    特集一覧 - 講演講師コラム 

講演依頼、講演会のことなら

ノビテクマガジン
ビジネスタレント

にお任せください!

[講演依頼、講演会のことなら、ノビテクマガジンビジネスタレントにお任せください!]