働き方・生き方
HUMAN RESOURCE DEVELOPMENT 人材育成
山崎直子【第2回】普段と違う役割を果たせば成長できる – 日常と異なる場でこそ学べるものがある
日常と異なる場でこそ学べるものがある
「オープンマインドで相手を受け入れることが大切。」
8人目の日本人宇宙飛行士としてスペースシャトル「ディスカバリー号」に乗り、15日間にわたって宇宙に滞在した山崎直子氏。地球と全く異なる場で過ごした経験は、彼女にどんな学びを与え、どんな変化をもたらしたのだろうか?
白谷輝英 ≫ 文 波多野 匠 ≫ 写真
(※本記事は、2016年7月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
普段と違う役割を果たせば成長できる
ロッキー山脈での野外訓練。険しい道を1 日に10kmも走破した。
NASAでは、10人の仲間と10日間かけてロッキー山脈を行進する訓練を行ったことがある。これは宇宙飛行士だけでなく、政治家や企業経営者、学生なども参加するプログラム。毎日リーダーを交代しながら、皆で助け合って険しい山を進んでいったそうだ。
「中には、『私にはリーダーなど無理だ』と尻込みする人もいます。でもその訓練では、日替わりで全員にリーダーを担当させるのです。普段とは違う場で普段と違う役割を果たしていると、いろいろな発見がありますね。尻込みしていた人がリーダーの醍醐味を知って皆を引っ張るようになるなど、本人が持っている『私はこういう人間』という先入観を打ち破って成長していたのです。私自身にも発見がありました。私は宇宙飛行士としては小柄。自分を『弱い人間』だと思っていたのです。ところが、研修に参加した仲間からは『ナオコは強い』というコメントをたくさんもらいました。それにより、自分自身を新たな角度から捉え直すことができた気がします」
宇宙飛行中は、さまざまな実験や作業に追われる。スケジュールは分刻みで、星をぼんやり眺めるような余裕はわずかだ。唯一、乗組員全員で集合すると決めていた夕食の時間は、とてもリラックスできるひとときだった。
「国際宇宙ステーションには、アメリカ人やロシア人も乗り組んでいました。数十年前までは冷戦でにらみ合っていた国民同士が、こうして一緒に、笑いながら宇宙から地球を見ている。皆で食卓を囲んでいると、とても感慨深かったです」
ロボットアーム操作中の山崎氏。宇宙での大きな作業は基本的に2人1 組で行っていた。
宇宙は厳しい環境だ。小さな事故がきっかけで、命が危険にさらされることもある。だから、チーム全員が互いに協力し合わなければ生き残ることはできない。
「ですから、いいことも悪いこともきちんと話し合って互いに理解しあう。そして、オープンマインドで相手を受け入れることが大切。それらは、宇宙飛行士になったからこそ学べたことかもしれません」
宇宙では、人間関係にも変化が生じると山崎氏。
「地上にいるとき、乗組員チームで全体写真を撮ると、何となく船長が中心になるんです。無意識に序列を考えてしまうのでしょうね。でも宇宙には床や天井などの『上下』という概念がありません。だから皆が立場を意識せず、フラットな関係でいられるのです。宇宙で過ごすと、いつの間にかオープンマインドになれるのかもしれませんね」
プロフィール
宇宙には上下がないので、人間関係の「序列」にも捉われない。
山崎直子(やまざき・なおこ)
1970年生まれ。東京大学大学院工学系航空宇宙工学専攻修士課程修了後、NASDA(現JAXA)に入社して国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の開発などに携わる。1999年、日本人宇宙飛行士候補者に選ばれ、2001年には正式に宇宙飛行士として認定。2010年4月、ミッションスペシャリストとして宇宙に飛び立ち、スペースシャトル「ディスカバリー号」やISS内でさまざまな実験や物資移送責任者の作業を行った。現在は内閣府宇宙政策委員会委員、立命館大学客員教授、女子美術大学客員教授を兼務するなど、多忙な日々を送る。