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山崎直子【第3回】新しい自分を手に入れるチャンス – 日常と異なる場でこそ学べるものがある
日常と異なる場でこそ学べるものがある
「普段とは異なる場に身を置くと、何気ないものの大切さに気付いたり、新たな発想力が磨かれたりします。」
8人目の日本人宇宙飛行士としてスペースシャトル「ディスカバリー号」に乗り、15日間にわたって宇宙に滞在した山崎直子氏。地球と全く異なる場で過ごした経験は、彼女にどんな学びを与え、どんな変化をもたらしたのだろうか?
白谷輝英 ≫ 文 波多野 匠 ≫ 写真
(※本記事は、2016年7月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
新しい自分を手に入れるチャンス
普段と異なる場に立てば「日常」を新たな姿で 再認識できる。
宇宙を経験したことで、ものの見方が以前より柔軟になったと山崎氏は語る。
「スペースシャトルの船内は狭く、4畳半ほどのスペースで7人が寝ます。でも、想像ほど狭さは感じません。重力がないため、床だけでなく、壁や天井でも寝られるからです。机も、一人が表を使い、別の人が裏面を使って書き物をすることが可能。そうした地上とは異なる景色を見たことで、それまでの価値観が絶対ではないと分かりました」
宇宙から地上に戻ったとき、一番戸惑ったのは重力のすさまじさ。山崎氏は、紙1枚がまるでノート1冊分の重さに感じられたそうだ。また、頭が重く、漬け物石を乗せられているような気分になった。一方、新鮮な驚きだったのが、草木のにおいや土の湿った感触、風が通った際の感触だったという。
「宇宙船の中には、地面も風もありません。そうした空間に身を置いたことで、普段は当たり前だと思っていたものが新たな姿で見えてきたのだと思います」
海外に長期滞在すると、それまで当たり前だと捉えていた日本の良さに気付くケースが多い。それと同じで、山崎氏も宇宙という、いつもと全く違う場で時間を過ごしたことで、地球の素晴らしさを認識する感覚が研ぎ澄まされたわけだ。
「普段とは異なる場に身を置くと、何気ないものの大切さに気付いたり、新たな発想力が磨かれたりします。それは、古い殻を取り払って新しい自分を手に入れるチャンスかもしれませんね」
ISSの窓から見た地球。日本の上空を通過したときは感動したそう。
宇宙に飛び立ち無重力状態を体験したとき、なぜか懐かしい感じがしたと語る山崎氏。
「もともと人間の身体は、宇宙で生まれた元素から作られています。つまり、宇宙は私たちにとって故郷。それで、懐かしい感じを覚えたのだと考えています。いずれ、一般の人々が気軽に宇宙に出られる『宇宙旅行時代』がやってきます。宇宙という場を気軽に体験できるようになれば、多くの人が無重力の楽しさ、宇宙の美しさを味わえるでしょう。それと同時に、地球の素晴らしさを再発見できるのではないかと思っています」
山崎直子【目次】日常と異なる場でこそ学べるものがある(了)
プロフィール
宇宙には上下がないので、人間関係の「序列」にも捉われない。
山崎直子(やまざき・なおこ)
1970年生まれ。東京大学大学院工学系航空宇宙工学専攻修士課程修了後、NASDA(現JAXA)に入社して国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の開発などに携わる。1999年、日本人宇宙飛行士候補者に選ばれ、2001年には正式に宇宙飛行士として認定。2010年4月、ミッションスペシャリストとして宇宙に飛び立ち、スペースシャトル「ディスカバリー号」やISS内でさまざまな実験や物資移送責任者の作業を行った。現在は内閣府宇宙政策委員会委員、立命館大学客員教授、女子美術大学客員教授を兼務するなど、多忙な日々を送る。