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柴田励司【第1回】ビジネスパーソンは仕事を楽しめているか – 経営者よ、社員から「居場所」と見なされる職場をつくれ! – [特集]はたらくをたのしむ
【コラムジャンル】
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2019年07月15日
経営者よ、社員から「居場所」と見なされる職場をつくれ!
[特集]はたらくをたのしむ
「経営層や管理職にとって、働くことを楽しめる環境の整備が最重要課題の一つ」
せっかく働くのなら、楽しく働けるほうがいい。では、ビジネスパーソンが楽しく働くために、組織をどう整えればいいのだろうか。米系コンサルティング会社マーサージャパンの社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社代表取締役COOなどを歴任し、現在は次世代リーダーの発掘と育成支援を手がけるコンサルティング企業『株式会社Indigo Blue』で会長を務める”人事のプロ”柴田励司氏に、楽しく働くためのポイントをうかがった。
白谷輝英 ≫ 文 佐々木信之 ≫ 写真
(※本記事は、2019年7月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
柴田 励司(しばた・れいじ)
株式会社Indigo Blue 代表取締役会長
1962年、東京都生まれ。上智大学文学部英文学科卒業後、株式会社京王プラザホテルに入社し、人事改革などを担当。その後、マーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティング日本法人(現マーサージャパン株式会社)代表取締役社長、株式会社キャドセンター代表取締役社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社代表取締役COOなどを歴任。2007年、経営コンサルティング事業と人材育成事業を柱とする株式会社Indigo Blueを創業。現在は同社の代表取締役会長を務めるかたわら、講演活動などを通じて人材育成に携わっている。
ビジネスパーソンは仕事を楽しめているか
1日あたりの睡眠時間を7時間と仮定すると、起きている時間は17時間。1週間では17時間×7日間=約120時間となる。もし週に40時間働くとすれば、我われは起きている時間の3分の1を仕事に費やしているわけだ。
これだけの時間を過ごしているのだから、職場は楽しく生き生きと働ける環境であるほうが望ましい。だが、それを実現できている組織は決して多くないというのが、人事のプロフェッショナルとして長年にわたって活躍してきた柴田励司氏の見立てだ。
「朝の通勤電車で周りを見わたすと、多くの人が憂鬱そうな表情を浮かべています。働くことを楽しめている日本人は、意外と少ないのかもしれません。そんな状況が続けば企業の生産性など上がりませんし、第一、社員が不幸になるばかり。そこで経営層や管理職にとって、働くことを楽しめる環境の整備が最重要課題の一つだと、私は考えています」
経営者が整えるべき三つの前提条件
では、社員が働くことを楽しめるようになるために、経営層たちはなにをすべきだろうか。柴田氏は、三つの前提条件の整備を勧める。
「一つ目は、社員たちに職場を”自らの居場所”だと感じてもらうことです」
たとえば、自宅のリフォームなどで仮住まいをする場合、どうしても部屋の掃除がおっくうになるものだ。限られた期間しか滞在しないとわかっているし、その部屋に対してなんの思い入れもないからである。一方、リフォームが完了して自宅に戻ったら、きれいな状況をできるだけ保とうとし、積極的に掃除するのが人情だ。企業でも同じことが言えるという。
「社員たちが職場を”自分の居場所”だと考えていれば、できるだけ心地よくしようと努力するでしょう。反対に、職場に対して思い入れがなければ、問題が生じたときに誰も主体的に解決しようとはしません。その結果、職場の空気はよどみ、楽しさなど望めなくなります。
なかには、職務記述書(ジョブディスクリプション)などを与えることで対処する企業もあります。しかし、こうしたやり方は古い。役割を上から押しつけても、社員は職場を”自分の居場所”とは感じ取れません。むしろ、社員の自主性を大切にするほうが効果的ですね」
柴田氏が率いるIndigo Blueでは、社員を制約するルールをほとんど設けていない。無理やり縛りつけても、かえってやる気を損なうだけだからだ。
「逆に、社員の自主性を重んじ、自由に力を発揮させること。そして、顧客の役に立って感謝される喜びを最大限感じさせるように心がけましょう。そうすれば、社員は仕事を心から楽しむことができ、職場に対してもみずから、愛着を感じるようになります」
働くことを楽しめる職場づくり、二つ目の条件は”企業が社会から好意的に見られている”ことだ。
「人から勤め先を聞かれたとき、『あそこか!いい会社だよね』などと褒められたら、社員は誇りに感じ、仕事に対して前向きになれます。反対に社会的評価が低い会社に勤めていると、いくら居心地や待遇が良くても、うしろめたい気持ちを抱えがち。当然、楽しい気持ちでは働けません」
1990年代以降の日本では米国流の合理主義が広がり、売上に直接関わらない施策を控えるようになった。その結果、企業イメージを高める取り組みも減ったが、これによって社員が自社を誇りに思う機会も失われてしまったのだ。
「でも、超合理主義を貫く企業は、実はアメリカのなかでもごく一部なのですよ。組織というのは氷山のようなものです。水面下の目に見えない部分を削っていくと、結局、組織全体が沈んでしまいます。ですから、社会貢献を目指して努力したり、その様子を対外的にアピールしたりすることは、企業にとって大事なことだと思うのです」
働くことを楽しむ三つ目の条件は、”成長実感”だ。
「良い仕事をした社員を高く評価し、次に面白い仕事を任せることが大切です。そうすれば、社員は成長の実感とやりがいを得ながら働けるでしょう。そうして個人の業績が伸びればやがて全社の利益も拡大し、各社員にさらに面白い仕事を提供できるというプラスの循環も生み出すことが可能です」
上からの押しつけではなく自主性重視により、従業員に職場を居場所だと感じさせること。その職場が社会から好意的に評価されていること。常に成長実感を持てること。この三つが、”働くを楽しむ”ために欠かせないのだ。