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40歳以上に向けた「鍛え直し」の場 PHAZEリカレントとは
【特別企画】40歳以上に向けた「鍛え直し」の場 PHAZEリカレントとは
学び直しや、新しいことを学びたいと思っていても、どうしたら? という疑問がつきものだ。
今回は、40歳以上対象のリカレント教育プログラムとして注目を集めている『PHAZEリカレント』を特集!プログラムの開発者と受講者に、「学び直し」や「スキルの鍛え直し」について語ってもらった。
「PHAZEリカレント」開発者インタビュー
人生に定年なし! ポータブルスキルを磨き「どこであっても通用する自分」へ
2021年4月にスタートした「PHAZEリカレント」は、40歳以上対象のリカレント教育プログラムとして注目を集めている。一般社団法人PHAZE代表理事として開講に携わり、インターネットサービス事業を手がける株式会社Crossdoorでは代表取締役CEOを務める大舘陽子氏に、学び直しの意義や当プログラムの魅力を聞いた。
(※本記事は、2022年9月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
中澤仁美 ≫ 文 佐藤里奈 ≫ 写真
大舘陽子(おおだて・ようこ)
一般社団法人PHAZE代表理事
株式会社Crossdoor代表取締役CEO
2008年に大学卒業後、上場企業にエンジニアとして入社し、事業戦略などを担当。2011年に独立して合同会社を設立。2013年4月から個人事業主として活動し、同年10月に「旅行関係のWebサービス」というアイデアで会社を立ち上げる。2015年4月、一般社団法人PHAZEの設立に参加。当初はIT分野のサポートを担い、現在は代表理事に就任。また、京都府で人材育成事業の運営なども手がける。2015年6月、テック系スタートアップの株式会社Pluto(現・株式会社Crossdoor)にCOOとして参画し、その後に代表取締役CEO就任。
「会社が自分のすべて」それでは通用しない時代に
自社の選考に応募してくる人材の層が変わった――。この気付きが、PHAZEリカレントを立ち上げるきっかけになったと大舘氏は話す。
「コロナ禍でリモートワークになり、副業を許可する企業が増えたこともあってか、応募者の平均年齢が一気に上がりました。私がCEOを務めるのはいわゆるテック系の企業ですが、40〜60歳代の方が急増し、80歳代の方までいらっしゃったほどです」
ところが、年齢には関係なく採用を見送るケースが少なくなかったという。メールの文面が非常に分かりづらかったり、オンラインでの打ち合わせがスムーズにできなかったりと、社会人としての基礎的なスキルに不安を感じたためだ。
「特定の企業や領域内で求められるローカルなスキルは、多くの方が意識的に鍛えているといえます。しかし、どんな職種・職場でも必要とされる基盤となるもの、すなわちポータブルスキルはどうでしょう。特に、一般的に管理職を務めるような年齢層では、現場の実務を部下に一任していることも多く、ポータブルスキルが衰えてしまっている傾向を感じました。つまり、一歩外の世界に出れば、思ったように活躍できない可能性があるわけです」
一つの企業内で経験を積み重ねてきたビジネスパーソンこそ、自分という「個」を鍛え直すための場を求めているはず――。そう考えた大舘氏は、同じく定年70歳時代の到来に向けて「社会人の学び直し」の必要性を感じていた柴田励司氏※と意気投合。40歳以上の社会人が完全オンライン制で学ぶ、PHAZEリカレントを開講するに至った。
「先が見えない時代では、『会社が自分のすべて』という感覚では乗り切れないかもしれません。自分の考えを整理する、書く、話すといったベースの力を磨き直すと同時に、仲間と一緒に多様な刺激を受けることで、心の持ちようをリセットできるような内容に仕上げました」
※柴田励司氏:マーサージャパン株式会社代表取締役社長、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社代表取締役COOなどを歴任。現在、一般社団法人PHAZE発起人・理事、株式会社Indigo Blue代表取締役会長を務めつつ、人事のプロとして人材育成領域で活躍している。
質の高いアウトプットでどこでも通用する自分に
PHAZEリカレントは、最大30名のメンバーと共に受講する2か月間の短期集中型プログラムだ。週4回、朝の7〜8時にオンラインで開講されるため、必然的に朝型の生活となる。
「早い時間帯なので仕事に影響を出すことなく学べる上、心身のリズムが整うメリットも大きいです。また、一般的な社内研修では、メンバー同士の日ごろの関係性があってオープンに話せないことも多いでしょう。まったく初対面のメンバーが集う場にすることで、肩肘張らずにコミュニケーションしやすい環境が整ったと思います」
具体的な講座内容は、「文献知の共有」「スキル講義」「講話シャワー」「経験を言葉に(自己プレゼン)」の4種。いずれも、ただ話を聞くだけでなく、質の高いアウトプットをスピーディーに出すことが意識されている。
「受講後に感想文を提出してもらうなど、文章で自身の考えを伝える機会をたくさん設けています。また、一部の講座では自らがプレゼンを行うため、スライド作成や人前で話すトレーニングにもなります」
大舘氏自身も「スキル講義」で講師を務めている。担当するテーマは「デジタルツールの使い方」で、業務を円滑に進めるために必須となるポイントを厳選し、手を動かしながら徹底的に学んでもらうという。
「中高年の方は、タイピングの速度が遅かったり、チャットならではの文化になじめなかったりして、仕事上のコミュニケーションに難を抱えていることが少なくありません。とはいえ、今の時代にITスキルから目を背けることは不可能。いくらでも失敗を許容するコミュニティーで練習を重ね、『どこに置かれても通用する自分』に近づいてほしいです」
他者が学ぶ姿勢を見て自らの心も燃え上がる
当初は、一つの企業内だけで経験を積んできたビジネスパーソンに、基本的なスキルを習得してもらう想定で生まれた本プログラム。ところが、実際に蓋を開けてみると、そうした層は3割程度に過ぎなかったそうだ。
「もっと自分をブラッシュアップしたくて参加する、アグレッシブな方が大多数で驚きました。また、受講生の中には大企業の経営陣クラスも多く、社会のトップ層といえるような方々ですらリカレント教育を求めていることも、時代のニーズを反映しているといえそうです」
プログラムを修了した卒業生の多くは、「皆が頑張っていから自分も頑張れた」といった言葉を残すという。社会人の学びは「忙しい」「疲れた」といった理由で中断されがちだからこそ、周囲から引っ張られる力を活用することが大切だと大舘氏は強調する。
「例えば、社外研修の一環として参加する方と、自らの選択と費用で学んでいる方を比べたら、最初のうちはモチベーションに差があることが普通です。しかし、プログラムが終わるまでには、どちらも同程度の熱量を持つようになっているから不思議です。他者が学ぶ姿勢を目の当たりにして、自らも燃え上がるものがあるのでしょうね」
PHAZEリカレントを長く続けることで、より多くの人に学び直しの場を提供したいと話す大舘氏。それは取りも直さず、壮年期以上のビジネスパーソンに対する熱い期待でもある。
「今の40歳代以上が元気になれば、日本という国はきっと変わる――。そう信じてスタートした取り組みです。当プログラムの卒業生がより広い世界へ羽ばたいていき、その周囲にいる人たちまでエンカレッジする好循環が生まれたなら、それ以上の幸せはありません」
PHAZEリカレント参加者座談会
社会人として学び直しに興味を持っても「仕事をしながら続けられる?」「本当に時間やコストをかける意義がある?」といった疑問が浮かび、なかなか動き出せない人は多い。PHAZEリカレントの参加者であり、現在は世話人として運営にも携わる4人のビジネスパーソンに、体験したからこそ分かるリカレント教育の価値について語ってもらった。
(※本記事は、2022年9月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
中澤仁美 ≫ 文
座談会に参加された皆様
大手通信会社グループに30年以上勤務し、そのうち10年は欧米に駐在するなど、グローバル事業に携わる。最近まで、物流関連の仕事に携わっていたが、現在はグループ会社にて、グループ内におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進を担当。毎日2万歩目標のウォーキングと週末のジョギングが目下の趣味。
電機メーカー勤務。製造、技術、営業と幅広い職種を経験し、ものづくりの上流から下流までに精通。その後、研究開発部門でプロトタイプの設計製作を担当し、現在は基板回路設計のDX化に従事。プライベートでは4児の母として、PTA副会長や大学の保護者代表役員を務め、地域活動にも積極的。
1997年よりデジタルハリウッド株式会社にて学校運営に従事。カリキュラムや教員のマネジメント、学生支援、環境整備、学事の企画運営等に携わる。2005年にデジタルハリウッド大学の設置認可を担当した後は、同校の運営責任者を務める。2022年4月よりフリーランスとして高等教育やコミュニティーのディレクション等に携わっている。
日本ヒューレット・パッカード合同会社勤務。前職を含めて23年間営業に従事し、2021年に製品部門(ビジネス開発)へ異動。同時期にPHAZEリカレントへ参加(現在は世話人コミュニティーで活動)。週末は息子(小学3年生)の少年野球のコーチ業やゴルフを満喫している。
社会人人生の道は長いから組織内にとどまらないスキルを身に付けたい
――まずは、皆さんがPHAZEリカレントに参加したきっかけを教えてください。
私が社会人になった当時は55歳が定年でしたが、今や社会人人生の寿命も大きく伸びましたよね。一つの企業に30年ほど勤めてきて、社外でも通用するスキルを身に付けたいと考えていたところ、柴田励司さんのメルマガで当プログラムの存在を知り「自分のための講座だ!」と直感して申し込みました。
私も長らく同じ会社で働いてきたのですが、いつの間にか組織の考え方一色に染まっている自分に気付きました。「井の中の蛙」状態から抜け出し、外の世界を学びたいと思ったとき、当プログラムの卒業生である会社の上司から勧められて興味を持ちました。
70歳まで働く前提で考えると、私は社会人人生の折り返しを迎える年代です。自社での経験から相応の知識やスキルは身に付きましたが、社外でも役立てることができるポータブルスキルを習得したいと思い、受講しました。
社会人人生がまだまだ続くということに、私も危機感を覚えていました。社内で新しい部署に挑戦したり、資格を取得したりはしましたが、それでも「武器」が足りていない気がして……。コロナ禍で在宅勤務になり、自分の時間を持ちやすくなったこともあって、思い切って挑戦しました。
――朝7時からの講座ですが、参加するのは大変ではありませんでしたか。
以前は起きる時間がバラバラだったのですが、おかげさまで朝型になれました。脳がまっさらな状態なので物事をよく吸収でき、その後の仕事でも効率がグンとアップしました。
私はもともと4時に起床することもあるくらいで、特に苦労はありませんでした。受講時間の7〜8時がゴールデンタイムとなり、より朝時間の質を高められたと思います。
7時に講座開始の音楽が鳴って一日が始まることで、生活にリズムが生まれますよね。私は講座がない曜日もアーカイブ映像を視聴して、そのリズムを崩さないようにしていました。
子どもを送り出す時間だけビデオをオフにするなど、柔軟に受講できて助かりました。通勤電車の中、会社のデスク、出先の駐車場など、自宅以外から参加する方も多いようですね。
質の高い講義に加えてアウトプットの機会が多く心に染みるプログラムも
――実際に受講してみて、特に印象的だったことを教えてください。
すべてが刺激的でしたが、特に大きな驚きだったのが「講話シャワー」。本来であれば広い会場で何百人を相手に講演するような各界の著名人や専門家が、朝の1時間、たった20人ほどのために講師を務めるという贅沢ぶりです。その場ですぐ質問でき、回答してもらえる点も魅力でした。話の内容がためになるのはもちろん、講師が人生を心から楽しんでいることがにじみ出ていて、モチベーションアップにもつながりました。
こうした講義形式のプログラムでは、受講後一定時間内に専用のフォームでレポート(感想や質問)を投稿するルール。講師からの回答は受講生間で共有される仕組みです。自らの学びを言語化することに加えて、他者の視点を知る絶好の機会になり、たくさんの気付きを得ることができました。
「文献知の共有」では、プログラムで選定された珠玉の30冊のうち、自分に割り当てられた本について12分間で発表します。普段なら手に取らないようなものも多く、知見が広がりました。発表を聞いた側は、5分以内にその本の良さを誰かにメールで共有するという決まりなのですが、これがなかなか難しくて……。短時間で質の高いアウトプットをする訓練になりました。
私が感動したのは「経験を言葉に」という、15分間で自分自身をプレゼンする講義。自らの人生を語り、他者に聞いてもらうという経験は貴重で、現在までの歩みを整理・意味付けする効果がありました。発表者へのフィードバックも必須なのですが、皆さんからのメッセージは今でも宝物です。管理職として奮闘されている方が多い世代だからこそ、相互承認し合うなどの情緒的な関わりが心に染みるのだと思います。
思いがけず得られた仲間とのネットワークそして自分を信じる心
――本プログラムで得られた、最も大きな「成果」は何でしょうか。
スキルの磨き直しを目的に受講する方が多く、実際にそうした成果は得られると思いますが、私は「心に灯がともる」ことに大きな価値があると考えています。長く生きていると何事に対しても感動が薄れ、惰性で生活してしまうもの。そうした中、努力している同世代と交流することで「自分も頑張ろう」という気持ちを取り戻せることが、最大の収穫ではないでしょうか。
アクションを起こさなければ絶対に知り合えなかった方々とつながり、ネットワークを築けることの意義は計り知れません。正直、最初のころは「本当にためになる内容かな?」と斜に構えて受講している部分もあったのですが、巧みなプログラム内容に引き込まれていきました。学びを楽しもうとするメンバーの存在が刺激になり、切磋琢磨できる環境は本当に貴重です。
家庭でも職場でもないサードプレイスを持てたことがうれしかったです。短期集中型のプログラムということもあり、メンバーと一気に打ち解けることができ、今ではまるで学生時代からの友人のような存在に。「会社に頼らず自分の仕様で仕事ができる」という自信が付いたことも、その後フリーランスとして独立する上でかけがえのない財産となりました。
毎朝講義の時間が待ち遠しくて、開始前からワクワクするほどでした。受講後は必ずと言っていいほど清々しい気分になり、その気持ちのまま仕事に取り組むことで、集中力やモチベーションが大きくアップ。以前よりポジティブシンキングができるようになり、将来的な目標に向けて前倒しで取り組み始めるなど、今後のライフデザインにまで大きな影響がありました。
いつまでも学ぶ姿勢を持ち心の灯をともし続けよう
――学び直しを検討している読者の皆さんに、メッセージをお願いします。
社会人の学び直しには、「自分が知らなかった世界を知る」という要素が多分に含まれます。新しい考え方を学ぶことで凝り固まった頭がほぐれ、本当に歩みたい道へ真っすぐ向かうための推進力が得られるはず。ぜひ、臆さず挑戦してほしいです。
若いころに研修を受けたようなテーマでも、経験を重ねた今だからこそ腹落ちして学べることが多いです。年齢を重ねていても「気付くことのできる幅が広がっている」とプラスにとらえ、思い立ったらすぐに動き出すことをお勧めします。
こうしたプログラムへ参加するかどうかに関係なく、朝の時間を上手に活用することは必要だと思います。多忙な年代が継続的に学ぶためにも、脳が活性化する朝を最大限に生かすよう意識してほしいです。
まずは、無理せずに長く続けるという心構えでいいと思います。私は朝のウォーキングの際、NHKの語学講座を聴くようにしているのですが、こうした「習慣化」が学び直しのキーワードになるのではないでしょうか。肩の力を抜きつつも、気になったことに対して行動を起こす姿勢を忘れずに、心の灯をともし続けましょう。