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前野隆司 科学で読み解くヒトの自律と幸せ

前野隆司【第2回】まず安心できる環境を整えよ – 科学で読み解くヒトの自律と幸せ

前野隆司

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2018年11月26日

科学で読み解くヒトの自律と幸せ

「幸福な状態であるための条件は、実は200も300もあってどれがその人に合うかは試してみないとわかりません。」

以前はロボットに心をもたせる研究をしていた前野隆司氏。13年前にたどり着いた結論は「科学で考えると、ロボットも人間も一緒*」。ならば、人間の幸せに直結する研究がしたいと始めたのが『幸福学』。工学、哲学、脳科学、科学技術の道に明るい同氏が紐解く、自律と幸福の関連性とは。

*2005年に前野氏が発表した「受動意識仮説」によるもの。人間が自由意志と思っているものは、実は脳の無意識部分の働きによるものだとの論をこれまでの研究結果や脳科学によって導いた100%ロジカルな学説。著書『脳はなぜ「心」を作ったのか「私」の謎を解く受動意識仮説』で詳しく説明されている。

櫻井健司≫写真 村上杏菜≫文 小谷奉美≫インタビュー

(※本記事は、2017年10月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)

安心できる環境を整えよ

多忙な現代人は『できるだけ早く終わらせ、結果を出そう』と、表面的な効率化に意識がいきがち。しかし大事なのは少し時間がかかっても、質の良いコミュニケーションをとり、信頼を高める環境づくりをすることだ。

「ある会社では6~7人のグループで、毎朝1時間かけて朝礼を行っています。今日1日の不安や問題点についてじっくり話しあう。この1時間が終われば、創造性3倍の社員が一気に仕事に取り掛かるのです」

朝礼は一つの例にすぎない。対話の4原則であるListening(傾聴)、Suspending(保留)、Respecting(承認)、Voicing(口に出す)を意識したコミュニケーションが交わされると職場は愛情あふれる環境になる。

「幸福な状態であるための条件は、実は200も300もあってどれがその人に合うかは試してみないとわかりません。たとえば呼吸を整えることでもスポーツでも、ほんの小さなことからでも心を整えていけば自律への変容は生まれていくのです。『利他的になること』もお勧めです」

自分が幸せになることに集中してしまうとなかなか幸せにはなれない。しかし、他の誰かの幸せに意識が向いた時、結果的に自身の幸せ度が上がるように人間はできているという。

「幸せも自律も効率化もブーメランのようなもの。手放すと、まわりまわっていつのまにか実現していくものです」

環境に適応するために脳は変容し続ける


せっかくならどんな変容も恐れずに、楽しい夢を描いて毎日ワクワク生きていきたい。

人が変容していく時、脳の中では何が起きているのだろうか?

「脳の成長はシナプス結合の強度が変わっているだけのもの。『自己変容が起きた!』と本人が感激している時と、日常生活における変化とでは脳科学的に違いは見られません。というのも、生きている限り脳は常に変容しているのです。でも、スピードは年をとるほど落ちていきます。

子どもの頃はまだOSしか入っていない状態なので、すごいスピードでどんどん変容していきます。毎日生まれ変わるようなものですね。大人になればなるほど保守的になり、大きな変容は起きにくくなるようにできています。なぜなら、安全で安定していることが幸せだからです。

つまり、環境に大きな変化があった時以外は、変容はしてもしなくても良いということ。大きな変化とは、個人レベルでいうと、倒産や家族の死など。社会的レベルだと、明治維新や戦後、震災の時など。そういうタイミングで、多くの人の意識に変容が起こっているはずです。人間はドラスティックな環境変化があると変容するようにできています」

結局、すべては幸せのためなのだと前野氏は言う。環境の変化に適応するために変容すれば安心して暮らすことができる。『幸福学』を追求する前野氏が目指す未来はもちろん、みんながワクワク生き生きしている幸せな社会。

「ロボットに心を持たせようと脳科学を研究していた時に、人間の意識は無意識部分の産物だとわかったんです。ロボットも人間も根源的には同じ、意志や自我なんて幻みたいなものだと思ったら、怖いものがなくなった。だったら、せっかくならどんな変容も恐れずに、楽しい夢を描いて毎日ワクワク生きていきたいなと」

世界レベルで成果主義、個人主義が行き詰まりを見せている現代社会。愛あふれる幸福な社会を目指すことが、日本人に自律を促す一番の近道かもしれない。

前野隆司 – 科学で読み解くヒトの自律と幸せ(了)

講師紹介

前野隆司(まえの・たかし)
1962年山口県生まれ。東京工業大学卒、同大学修士課程修了。キヤノン株式会社勤務。カリフォルニア大学バークレー校VisitingIndustrialFellow、ハーバード大学VisitingProfessor、慶應義塾大学理工学部教授等を経て、2008年よりSDM研究科教授。2011年4月よりSDM研究科委員長。博士(工学)。ヒューマンインターフェイス、幸福学などをもとに幅広い分野でシステムデザイン・マネジメント研究を行う。『実践ポジティブ心理学幸せのサイエンス』『幸せのメカニズム実践・幸福学入門』『システム×デザイン思考で世界を変える慶應SDM「イノベーションのつくり方」』など著書多数。

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