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茂木久美子 – 営業・販売の売上を伸ばしたいなら「商品を売るのをやめましょう」
茂木久美子 - 営業・販売の売上を伸ばしたいなら「商品を売るのをやめましょう」
商品やサービスの売上を伸ばすにはどうすればいいか。これは、販売に携わるビジネスパーソンなら一度は考えることでありながら、そう簡単に答えが出ない課題だ。そんな中、山形新幹線の車内販売で、1 人で 1 日平均売上の5倍にあたる 5 3 万円を売り上げて一躍有名になった人がいる。茂木久美子氏だ。その経験を活かした茂木氏の講演活動は年150本にのぼるという。今回は、茂木流の販売術について詳しく聞いた。
(※本記事は、2023年5月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
力武亜矢> 文 波多野 匠> 写真
茂木久美子(もき くみこ)
伝説のカリスマ販売員/元山形新幹線「つばさ」 車内販販売/株式会社グローバルゲンテン 代表
山形県天童市生まれ。山形新幹線の車内販売で平均売上の5倍以上、1日50万円以上を売るカリスマ販売員として有名。全国から年間150回以上の講演の依頼がある人気講師であり、講演や研修、コンサルティング、執筆を通して自身の販売ノウハウや接客のあり方を伝えている。
共感力をつければ売上は伸びる
山形新幹線の車内販売員として伝説的な売上を記録し、数々のメディアに取り上げられた茂木久美子氏。茂木氏は、1998年に山形新幹線「つばさ」の車内販売員1期生となった。「つばさ」は、山形から東京までの所要時間が片道3時間前後、その間の車内販売額は1人平均約7万円だが、茂木氏は2005年のゴールデンウイークに1日53万円を売り上げ、その驚異的な売上額から、数々のメディアに取り上げられた。以降、茂木氏は伝説の車内販売員としての講演活動が増え、2012年に車内販売員から講演会講師にキャリアシフトした。茂木氏に講演を依頼する業界は、保険・銀行・商工会議所・製造業・百貨店・化粧品メーカーなどさまざまだが、求められる講演テーマは「営業職、販売員向けの、売上を伸ばすための接客術」が多いという。
「売上を伸ばすための共通ポイントは『共感力』です。お客様が何を思い、考え、希望しているかを察し、共感し、対応する。それが販売に直結しなくても、お客様を思っての言動は必ず伝わり、繰り返すことで売上は伸びていきます。ただ商品を売ろうとするだけの言動は透けて見えてしまい、買いたい人の気持ちも萎えてしまいかねません。販売業の役目はお客様の満足であり、商品を売ることはその手段でしかないのです」
「お客様の感情やストーリーに共感してよりよい商品を提案する」方法は、昨今の販促トレンドの一つとされる「商品にストーリーを持たせてお客様に共感してもらう」とは異なる発想だが、どちらも「共感」がキーワードの一つである令和時代にフィットした考え方だ。
自分以外の誰かを演じて新たな自分を発見
茂木氏は、誰もが共感力を鍛えられるよう、独自のカリキュラム『KARAWARI』を考案し、提供を始めた。「こうでなければいけない」「どうせ私にはできない」という思い込みを取り払い、自分らしさや新しい自分を見つけて自信をつけるためのカリキュラムで、日常のさまざまなシーンを舞台に、皆で役者になって演じ、自分を即興的に表現できるようにする研修だ。自分と違う人物を演じることで、新たな発想が生まれたり、思ってもみなかった成果が得られたり、仕事も人生もどんどん創造的に楽しくなっていくことを目指す。
例えば、自分の部署を中華料理店の設定にし、部署の各メンバーに客や店主などの役を割り振り、それぞれの役者を演じる。店主は客を自分の好きな芸能人に見立てれば、より気持ちのこもった接客ができるかもしれない。もっと身近な設定なら、上司と部下を入れ替えてみるパターンもいいだろう。
このとき、設定した場所を俯瞰することが大事だと茂木氏はいう。その場にいる自分や同席者を天井から見下ろすイメージをして、部屋全体の空気感を読み、次に自分がどう動き、何を発言すれば良好な時間が流れるかを考える。さらに、自分が人からどう見えているか、自分の思いが先行して相手の気持ちを考えていない状態になっていないかなどを、俯瞰するのだ。
「自分とは違う誰かになりきってみると、自分以外の人の気持ちが分かるのはもちろん、自分としてではできなかったことができてしまうこともあります。この経験から、自分の違う一面を知り、さらなる自信にして欲しいのです。そして、自分は世界一のカリスマだと思って演じ続けていくと、だんだん演技ではなく、自分自身の本当の一面となっていき、自信を持って接客できるようになります」
実際に『KARAWARI』研修をおこなうと、参加者は楽しみながら新たな自分を発見していくそうだ。中には、リーダーシップがあると思い込んでいた人が周りの人への気配りが足りなかったことに気付いたり、人前で話すのが苦手だった人が堂々とプレゼンできるようになってコンテストで最優秀賞をとったこともあったという。
仕事を楽しむ販売員に客は惹かれる
『KARAWARI』研修を含め、仕事や学習、改革を楽しむ気持ちこそが、売上を伸ばすもっとも有効な手段だと茂木氏はいう。
「企業で組織の一員として働くと、言われた通りに動いたほうが楽ですし、上司としても言ったことだけやってくれたほうが手間は増えません。ですが、そう思っているうちは、どんなに小手先の接客術やセオリーを学んでも、想定の数字以上にはならないと思います。想定以上の結果を生みたいのなら、まずは現場が楽しんで働けて、自由な発想ができる環境にする必要があります」
実は、茂木氏が53万円の売上を出せた要因も「楽しんで販売した」ことであり、それを許し「自由にやっていい」と言ってくれた上司の存在が大きかったという。
「新幹線の車内が満席で通路にも人がいる状態になると、車内販売のワゴンが通れなくなります。その場合、普通はワゴン販売を諦めるのですが、私は違いました。満席であろうとなかろうと、飲み物やお土産が欲しいお客様はいます。その方々の要望にどうやって応えようか考え、ワゴンから要望の多そうな商品を取り出し、手提げのビニール袋に詰め込み、ワゴンを置いて車内に入りました。53万円を売り上げた日もそうでした。車内中央の席まで行くのは無理そうだと思っていたら、なんとお客様同士で中央席まで商品とお金の受け渡しリレーを始めてくれたんです。そこで車内に一体感が生まれ、イベントのような状態になり、『私も何か買おう』という気分になった人もいて、それが脅威の53万円につながったと思っています」
つまり、53万円は茂木氏が売ろうとして達成した数字ではないが、茂木氏がなんとかしてお客様に旅を楽しんでもらおうと考えたことと、本人もそれを楽しんだこと、そして、自由な販売スタイルを許してくれる上司の存在があったことで生まれた数字だったのだ。
販売員自身が販売を楽しみ、商品を売るより前に、相手の感情や希望を察知して対応する。先回りくらいでちょうどいい。お客様は、買い物をするなら、自分のために動いてくれる販売員から買いたい。そうして自分のファンを増やしていくことで売上は自然についてくるのだと、茂木氏は笑った。
茂木氏の話を聞きながら、販売員はいつしか「お客様は神様」という言葉にがんじがらめになっていたのかもしれないと思った。お客様あっての商売には変わりないが、だからといって客の要望を待って対応するだけが商売ではない。お客様に喜んでもらうために、まずは売り手自身がこの販売物語の主人公になって楽しむ。そんな販売員を見て、お客様は「楽しそうにしているこの人から買いたい」と思うのだろう。少なくとも、茂木氏が楽しそうに語る姿を見て、「私にもできる!」と思う販売員が現れることは想像に難くない。