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宇都出雅巳【第10回】サブタイトルに意識を向ける- 速読勉強術のプロ まとめてグルグル10冊書評
【コラムジャンル】
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2015年07月14日
10冊書評も最後の3冊
以下の3冊です。
『町工場の娘』(諏訪貴子著 日経BP)
『世界の働き方を変えよう』(吉田浩一郎著 総合法令)
『経営者格差 (PHP新書)』(藤井義彦著 PHP新書)。
タイトルを見ただけではあまり共通点がないようですが・・・、もう一歩突っ込んで、サブタイトルを見てみましょう。
『町工場の娘―主婦から社長になった2代目の10年戦争』
『世界の働き方を変えよう――クラウドソーシングが生み出す新しいワークスタイル』
『経営者格差―会社がワーキングプアを助長する』
少し、どういう本かが明確になり、3冊の中で重なる部分が少しあるのも見えてきたかもしれません。本を読むとき、タイトルはさすがに意識しているとはいえ、サブタイトルは意外とさらっと流していることがあります。
本のタイトルというのは、タイトルとはいえ、まずは「何だろう?」と書店の店頭で手にとってもらうためのキャッチコピーの意味合いもあるので、本の内容をきっちり表していないこともあります。その補完をするのが、サブタイトルなので、ぜひ、サブタイトルには意識を向けるようにしてください。
『町工場の娘――主婦から社長になった2代目の10年戦争』などはどういう本かよくわかりますし、『世界の働き方を変えよう――クラウドソーシングが生み出す新しいワークスタイル』は、タイトルだけでは抽象的だったものが、具体的にどのような働き方(ワークスタイル)を提案したいのかがはっきりしています。『経営者格差――会社がワーキングプアを助長する』もタイトルでは見えなかった裏テーマが見えてきます。
町工場の娘
では、1冊ずつ取り上げて紹介していきましょう。まずは、『町工場の娘―主婦から社長になった2代目の10年戦争』です。毎度ながらですが目次からみていきましょう。この本は章は少なく3つです。しかも第2章が半分以上を占めています。第2章は3つに分かれているので、そちらのタイトルも出しつつ、それぞれのページ数を書いておきましょう。
タイトル・サブタイトルの『町工場の娘―主婦から社長になった2代目の10年戦争』と合わせて、この目次を読めば全体像は浮かんできますね。第1章と第2章が具体的なエピソード、そして第3章が体験をベースに抽象度を上げたノウハウという構成でしょう。こういったビジネス書(小説以外の一般書・専門書も同じですが)を読む場合にシンプルで効果的なフレームワークを紹介しておきましょう。
それは、「具体と抽象」です。
もう少し具体的にいうと、ある抽象的な主張とその具体的な根拠、もしくは、具体的なエピソード・体験とそこから導き出された抽象的な教訓・ノウハウという枠組みです。この本でいえば、最初の2章が具体、最後の1章が抽象となります。非常にシンプルな枠組みですが、この枠組みで読んでいくと、本の構成が明確になり、高速大量回転に不可欠な飛ばし読みもラクにできるようになります。たとえば、こんな飛ばし読みができます。
1)抽象的な主張がわからない、頭に入らないので、そこは飛ばしてそのあとの具体的な説明から
読んでみて、そこからまた抽象的な主張のところに戻る。
2)あれこれ具体的なエピソードが書いてあるけれども、長くて読む気がしないので、
要はどういうこと?と、そこは飛ばして、最終的な結論、主張のところをまず読む。
また、具体的な物語が好きな人もいれば、抽象的な原理やノウハウが好きな人もいるでしょう。自分の好みを知ったうえで、それに合わせて「具体と抽象」の枠組みで切り分けながら、本をラクに読んでいきましょう。
この本も、第1章から始まる著者のストーリーを読みたければそこから読めばいいですし、あまりそこに興味が持てなければ、第3章の仕事論を最初に読んで、そこから著者への興味をかきたててから第1章からのストーリーを読んでもいいでしょう。
そのほか、第2章の具体的なストーリー中心のところでもそこを細かくみていけば、具体的なエピソードと抽象的な原理やノウハウ、主張にわけられていきます。また、第3章の仕事論も同じで、抽象的な「論」だけでなく、それに関連する具体的なエピソードも入っています。
すぐに内容に入るのがきつければ、キーワードやこういった構造だけを押さえて読んでいくことで、ラクに読み進められ、結果的に速く読めるようになります。
世界の働き方を変えよう
では、2冊めの『世界の働き方を変えよう―クラウドソーシングが生み出す新しいワークスタイル』に入っていきましょう。
著者は、クラウドワークス代表取締役社長兼CEOを務めていて、いわゆる「クラウドソーシング」を進めている会社の社長さんです。まずは目次からみていくと、これも『町工場の娘』と同じように、著者自身の具体的ストーリーと抽象的な主張や考えに大きくわかれることがわかります。
いかがでしょう?大きな構成はわかりましたか?
特別対談を別とすれば、大きく3つにわかれます。先ほど紹介した「具体と抽象」という枠組みを意識してわけていくと、第1章から第3章が具体的なストーリー、第4章・第5章が、働き方に関する抽象的な主張、そして第6章が経験から導き出した抽象的な教訓・ノウハウとなるでしょう。
また、2つにわけられるともいえます。第1章から第3章、そして第6章が、ベンチャー立ち上げの話とそこから学んだ仕事術、第4章・第5章が、タイトル・サブタイトルが表している『世界の働き方を変えよう――クラウドソーシングが生み出す新しいワークスタイル』の話になります。
言ってみれば、この本は社長の長い自己紹介を含む、クラウドワークスという会社の案内本といえるかもしれません。『町工場の娘』も経営者が書いた本ですが、構成や性格はかなり違うことがわかるでしょう。
ここまで2冊、本文を読んでの解説は全く行っていませんが、このように目次だけでもかなりの部分がわかって、それが本文を読むための準備となり、ラクに本文が読めるようになるのです。
経営者格差
では最後の3冊目、『経営者格差-会社がワーキングプアを助長する』です。
著者は、慶應ビジネススクールの特別研究教授であり、コンサルタントです。まずは目次を見てみると……
経営者について書かれた本であることは確かですが、サブタイトルの「会社がワーキングプアを助長する」にはあまり絡まない感じで、構成も見えてきません。
次に「まえがき」をみていきましょう。「まえがき」には本の全体構成や著者の主張がズバリと書かれていることが多いからです。「まえがき」をみると、冒頭に著者の強い主張がいきなり書かれています。
「会社と、トップ次第でいかようにでも変わる」
「一人のトップが多くの社員の運命を握る。よくも悪くもそれが組織だ」
タイトルの「経営者格差」という言葉を借りれば、「経営者格差が企業格差となる」ということなんでしょうね。そして、まえがきには、サブタイトルに出ている「ワーキングプア」の著者なりの定義も書かれています。ただ、通常、「ワーキングプア」とは、フルタイムで働きながらも貧困から抜け出せない人のことをいいますが、本書では、このように書かれています。
「ただ、私は、たった一人の愚かなトップが、働いても働いても報われない社員という意味の「ワーキングプア」を大量生産していることにも着目する。そんなトップに憤りを禁じ得ない。」
元々の意味とはかなり違った意味で使われています。そして実は、「ワーキングプア」という言葉が出てくるのは、まえがきのこの箇所だけです。タイトルを決めるのにかなり苦労されて、「ワーキングプア」をいう流行りの言葉を強引に持ってきた感じはありますね・・・・・・。
では、この本はどういう本なのか。まえがきにはこうあります。
「ビジネスマンとして順調に歩んできた人であれば、ビジネススキルはある程度、備わっている。しかし、会社を統率し、社員の運命を左右する人間に成長するには、また別個のスキルが必要になる。人間的魅力、行動力、判断力、倫理観、清潔さといったことである。それを考察したのが、まさに本書なのだ。
こういうことを書いた本のようです。ただ、それが体系的にまとまっているかというと、先ほど紹介した目次からもわかるように、そうではありません。さまざまなトップのエピソードをあれこれ集めた本になっています。実際、「あとがき」には、「本書の執筆には、次の書籍から多大なヒントをいただいた。記してお礼申し上げる」として、松下幸之助、本田宗一郎、稲盛和夫、小倉正男など、名経営者と知られている人の著書やその解説書が20冊以上挙げられています。体系的でない分、どこからでも気楽に読める本になっており、すぐれた経営者の行動、考えを効率的に知ることができます。
なお、著者の藤井義彦氏はカネボウに30年間勤めていた経験があります。カネボウといえば名門でありながら、粉飾決算を繰り返し、消滅してしまった会社です。おそらく、カネボウ時代にいろいろな経験をされて、今もその経験にまつわる強い感情が残っていると推察されます。
まえがきの最後にはこうあります。かなりこちらも強い思いが感じられます。
「「会社は誰のものか」が言われる。答えは人によって違うだろう。だが、会社の進む道を決定するのは、まぎれもなくトップである。社員はそれにはあらがえない。いや、役員すら、トップの権力には抗せない。トップには、それだけの力と責任があるのだ。」
ある意味、この本はこの著者の強い思いがすべてであり、本文にある名経営者のエピソードは、単なる刺身のつまのようなものかもしれません。ただ、こう言われた社員はどうすればいいのか? 「だから社員は、経営者の力量と人間性に、もっと厳しい目をむけるべきである。」と書いてあるのですが……。社員の立場の人が読むには、少々きつい本かもしれません。
さて、3冊の本を目次やまえがき・あとがきだけで読んでみましたが、いかがでしたか?
2冊は現役の経営者が書いた本、もう1冊は経営者について解説した本で、共通点としては「経営者」ということになりますね。
また、『経営者格差』で取り上げられている松下幸之助、本田宗一郎などの名経営者も、もともとは町工場、ベンチャー企業のトップであり、『町工場の娘』や『世界の働き方を変える』著者と同じ立場だったことがあるんですよね。
松下幸之助、本田宗一郎にしても、最初からトップとして完璧な資質を備えていたわけではなかったでしょう。それが、企業が成長し、そのなかで数々の困難を越えていくなかで、自らを変革し成長して、その時々の役割を果たし、成長していったのです。
ちなみに、松下幸之助、本田宗一郎の初の一般向け著作は、すでに日本を代表する経営者として評価されるようになってから、それぞれ59歳、49歳になった年に出版されています。
『町工場の娘』『世界の働き方を変えよう』のお二人のトップもこれからの企業の成長・変化に応じて、変化が求められ、異なる資質を必要とされてくると思います。『経営者格差』が言うように、「企業はトップ次第」であることも真実であるように、「トップも企業次第」でその果たす役割や求められる資質は変わり、企業の中で成長していくと言えるでしょう。
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