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【書評】三越伊勢丹 モノづくりの哲学 新たな挑戦はすべて「現場」から始まる |大西洋 内田裕子 (著)|PHP研究所 – ノビテクマガジン編集部の本棚
【コラムジャンル】
こんの , ノビテクマガジン編集部 , モノづくり , 三越 , 伊勢丹 , 内田裕子 , 哲学 , 大西洋 , 新たな挑戦 , 書評 , 本棚 , 現場 , 講演会 , 講演依頼
2017年04月24日
今回の編集部の書評は、経済ジャーナリスト 内田裕子氏が百貨店ビジネスの常識を覆してきた大西洋氏(当時 三越伊勢丹ホールディング社長)に迫った『三越伊勢丹モノづくりの哲学 新たな挑戦はすべて「現場」から始まる』です。
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三越伊勢丹 モノづくりの哲学 新たな挑戦はすべて「現場」から始まる
大西洋 内田裕子 (著)|PHP研究所
帯にある「リスクを取った商売構造に変えていかなければ百貨店ビジネスに明日はない!」の言葉の通り、強烈な危機感をもって、構造改革を推進した大西洋氏と、三越伊勢丹のバイヤー、産地の職人へのインタビューを中心にしたレポートです。
目次
本書の目次から大見出しをご紹介します。
第1章 なぜ、三越伊勢丹はモノづくりに乗り出したのか 大西洋
第2章 衰退の靴職人が「シンデレラストーリー」の主役へ <ナンバートゥエンティワン>の大ヒット
第3章 日本製の糸で紡ぐ ベビー肌着<キセット>
第4章 生地にストーリーを 尾州の毛織物
第5章 スピードよりも丁寧さ 流行ではなく本質で勝負する葛利毛織工業
第6章 世界基準のモノづくりを目指して 日本最高のシルクでパリで勝負する藤本商店
第7章 大西 洋社長、大いに語る
ご覧いただいておわかりの通り、本書の「モノづくり」とは、靴・衣料の分野です。
伊勢丹時代、大西氏が成果を上げてきた分野であり、仕入れ構造改革においての課題を理解し、改善ビジョンをあげやすい分野であることが推測できます。この分野の知識が乏しいため、描かれる出来事ひとつひとつが新しい発見の連続でした。
そんななかで特に興味惹かれたのが、周りは高速織機に乗り換えるなか、設備投資ができなかった中小企業のエピソードです。
古きよき技術と進化
欧州ではすでに失われてしまった古きよき英国の生地が、遠い日本の尾州の小さな機屋に残っていた。品質は最高級。さらに長い歴史の中で日本独自の色柄に進化していた。懐かしいのに新しい。伝統と革新の融合。目の肥えた海外バイヤーたちもさぞかし驚いたに違いない。
葛谷たちにとっては時代遅れだと思っていたものが、そうじゃなかった。ここで完全なパラダイムシフトが起こったのだ。
第5章 スピードよりも丁寧さ P.189
効率化、大量生産の波に乗れず時代遅れだったものが、東洋の島国で細々と独自の進化を遂げ、伝統ある英国で驚きをもって迎えられる。ガラパゴス携帯と同じことがここにも起こっていました。国内でひっそり生きる驚愕の技術を三越伊勢丹の力で世界に広めたい。そうした高い志がバイヤーにも刻まれていることが本書の中でしっかり描かれていました。
危機感が共鳴した
驚愕の技術も、素晴らしい素材も、産地へと足を運ばなければわからなかったことです。バイヤーが直接、産地に赴き、素材から開発をするに至ったのは、今までのやり方ではいずれ百貨店は消えてなくなるという危機感でした。
地方の中小企業の生産者も同じ、もしくはそれ以上に危機感を感じていました。
「子どもの頃、百貨店は魅力的な場所だったけど、いまはそれも薄れてきた。三越伊勢丹さんは、大手百貨店の中で一歩も二歩も他社より先んじて、百貨店の危機というものを自分の危機として提えて、生き残ろうとしている」さらにつづける。
「僕も生きんがためですけど、百貨店も生きんがためですね。だってユニクロとか、しまむらとか、まったく違う勢力が伸びてきた。だから百貨店がこれまでやってきた、売り場を貸すだけの努力なき営業というのは、もう通用しない。なんとか危機を脱したいと、本当に必死になってやろうとしているのが伝わってきます。それで、一緒にやってみようと思いました」
第6章 世界基準のモノづくりを目指して P.218
売り場を貸し出し、売れなければ返品をして在庫を抱えないなど、リスクの少ない商売をしてきたという構造が本書内で示されたあとだけに、生産者と百貨店には距離があることが想像できます。しかし、その後、上記の引用にあるように、危機を脱したいと必死に足を運び、汗を流すバイヤーの姿に、職人の心が動いた瞬間が描かれています。
挑戦の記録
資本を持った大企業と、技術を持った職人・中小企業が対等にモノづくりをしていくには、組織を越えて「人」が実際に「リスク」をとり「動く」ことが大事であると理解できます。
大西氏は2017年3月31日付けで三越伊勢丹ホールディングス・三越伊勢丹の社長を辞任することになりました。この本では、大西氏の構造改革ビジョンのひとつ「自分達でモノをつくる」が、現場でどう機能していったのかを書きとめています。
ひとつの成果と、挑戦を記録した貴重なレポートになったことは間違いありません。
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三越伊勢丹 モノづくりの哲学 新たな挑戦はすべて「現場」から始まる
大西洋 内田裕子 (著)|PHP研究所