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田村勇人 弁護士がすすめるビジネスパーソンが観るべき映画~人間関係を映画で学ぶ~

田村勇人【第3回】食い違う証言から真実を見抜く方法 – 弁護士がすすめるビジネスパーソンが観るべき映画~人間関係を映画で学ぶ~

田村 勇人

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弁護士がすすめるビジネスパーソンが観るべき映画~人間関係を映画で学ぶ~

食い違う証言から真実を見抜く方法。同じ現象でも人によって出てくる言葉が違うことがあります。今回は、どのようにしてそこから真実を見抜くかのポイントをお伝えします。

多くの一般民事・刑事・医療過誤・企業法務等、幅広い分野における事案を解決している弁護士田村勇人が、法律だけでなく人間への洞察を活かして事件を解決してきた経験から、新たな視点で名作の映画をとおして、人間関係を解説する。今回のテーマは、世界の黒澤明の代表作「羅生門」を題材に真実を読み取ることの難しさ、そしてその理由などをお伝えしていきます。

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食い違う証言から真実を見抜く方法

前回のコラムでは、同じ現象でも人によって出てくる言葉が違うことをお伝えしました。では、どのように真実を見抜くのかを見ていきましょう。わかりやすいように簡潔にまとめると、以下(1)~(7)が重要なポイントです。

(1)人間を介さない物や客観的な物、証言の一致から、固い真実を見極める

羅生門では、
・夫の他殺体が存在していること
・周囲に切られた縄が落ちていること
・夫妻が盗賊と出会い、妻が盗賊に犯されるという部分までは一致している
ため、真実と判断できます。

(2)証言者の目撃状況や属性から、どのような認知バイアスがあるかを考える(証言者自体の勘違いの可能性を吟味する。)

羅生門ではこの点は描写されていませんが、森の中の出来事なので、仮に猟師が居たとして、その証言を取り上げる場合には、目撃した際の視認性が問題になります。たとえば、獲物を追っていたのであれば、事件の真実を見逃している可能性があります。

(3)証言者の属性や立場から、どのような表現バイアスがあるかを考える(証言者が自らの利益を守る必要性を考慮する)

羅生門で強く描かれているのがまさにこの部分です。

夫のバイアス: 「決闘に負けたことを隠したい」、「妻から『賊も殺せないのか』と馬鹿にされしぶしぶ決闘をしたことを隠したい」
妻のバイアス: 「盗賊に身を任せた(それを印象付けるシーンがあります)ことを隠したい」、「自害せず、盗賊にも夫にも捨てられたことを隠したい」、「自分は哀れな被害者という立場でいたい」
盗賊のバイアス: 「盗賊なのに妻に情けなく懇願したことを隠したい」、「妻から『男は腰の太刀にかけて女をものにするんだ』と言われて、しぶしぶ決闘したことを隠したい」

ここから、夫の証言のうち、自ら自害したこと、妻の証言のうち、私を殺してくださいと言ったこと、盗賊の証言のうち、立派に決闘したこと、の点はすぐに真実を決めるのではなく、判断を保留した方がよいことがわかります。

(4)証言者が自分に不利益な発言をしている場合は信用性が高い

例えば、自ら不正や犯罪を認めるなど、嘘をついてまで不利になることは通常考えられないので、信用できることになります。ただし、誰かをかばっていたり、他のより重大な不利益を隠すためではないかという点には注意が必要です。

(5)証言内容が評価なのか、真実なのかを見極め、真実を重んじ、評価には重きを置かない。

“たくさん”や“重い”などという証言をした場合には、具体的な数値が言えれば数値を、言えない場合には、日常的なものとの比較を聞き出すことによって、具体化することが重要です。本人の主観基準のみである場合には、あまり重要視しないことが必要です。

羅生門では、夫の「妻のあんなに美しい顔は今まで見たことがない」という証言は、夫は、「妻が盗賊に犯されながらも気をやった」ことを言いたいのでしょうが、実際に妻がそのような顔をしたかについては保留すべきです。むしろ夫は、「妻が盗賊に犯されながら気をやったといいたい」という点を重要視しましょう。

また、妻の「夫のあんなに蔑んだ目を見たことはない」という証言も、妻は「夫から蔑んだ目で見られたといいたい」ことだけを重視し、真実そうであったかは保留すべきです。

(6)異常な真実については、合理的な理由があるのかを認識する

気をつけていただきたいのは「当該状況下においての異常かどうか」であることです。

例えば、人からものを盗ることは通常は異常な事態ですが、窃盗犯人が見つけやすい場所にあった現金を盗らなかったという場合は、盗ることが通常で、盗らなかったことが異常な事実です。羅生門では次の(イ)(ロ)(ハ)の点に注目します。

(イ) 妻の「気を失って気づいたら夫の胸に短刀が刺さっていた」という証言は、盗賊に犯された後に夫から蔑んだ目で見られただけで気を失う点と、さらに人の殺害もしくは自殺行為があったのに気を失ったまま気付かなかった点が異常です。そもそも、男女問わず「気を失っていた」という場合、その後の事実について不都合があることが多いことに注意してください。
(ロ) 盗賊の「妻から『どちらか1人が死んで」と言われた。」という点も、羅生門が作成された当時はわかりませんが、現代の価値観ですと異常な事実です。
(ハ) 夫の、「妻が盗賊に『夫を殺してください。あの人が生きていては、私はあなた(盗賊)と行くわけにはまいりません。」と言ったという点も、異常な事実です。

こうやってみていくと、どうも盗賊が妻を犯した直後の事態について三者三様に異常なことを言っており、そこに真実をさぐる鍵がありそうなこと、全員が嘘を言っている可能性が高いことに気付くことができます。

(7)(1)~(6)の作業から見えてきた真実と、証言内容との食い違いが、一貫した理由によって説明できるかを考える

固い真実

盗賊が夫妻と出会い、夫が盗賊に騙されて縛られ、妻は(短刀の経緯はともかく)強盗に犯された。その後、何か揉め事があり、夫は短刀で自らを刺すか、刺されるかして死亡した。死体から見るに短刀ではなく太刀で殺された。妻は盗賊から逃げられた。

一番の問題点

夫の死亡が盗賊による他殺なのか自殺なのか。
盗賊は自ら殺したと述べているので、不利な事実をわざわざ言っている。そして、夫は『決闘はなかった。自殺だ』と言っている。しかし、死体の様子は夫の言う短刀ではなく太刀で殺されたと思われる。よって自殺との証言には客観的事実と矛盾する点がある。
また、妻は気を失って見ていないと言っている。

→よって、夫の死因は盗賊による他殺と推認できる。

妻が夫の殺害を盗賊にけしかけたかについては、妻自身はしていないと言っている。
しかし、盗賊は、どちらか一方が死んで生き残ってくれた方と行くと言われたと言っている。夫は、妻が盗賊に「あの人を殺してください」と言ったと言っている。夫の死因は盗賊による他殺なのであるから、盗賊の一方的な殺害か、決闘がなければおかしい。そして夫も盗賊も一致する発言をしている。

→よって、妻が夫の殺害を盗賊にけしかけた点は、かなり真実性が高い。

夫と盗賊の決闘の様子については、盗賊はお互い勇ましく戦ったといっている。妻は何も覚えていないと言っている。夫は、自殺したと決闘の存在自体を否定している。
しかし、妻が決闘をけしかけたのは事実なのであるから、決闘はあった。それなのに夫が決闘の存在自体を隠すということは、何か言えない事情があることが推測される。(ここはやや時代背景等に寄りかかった推察ですが)決闘で負けること自体は恥ずかしいことではない。

→それなのに存在自体を隠したいのは、少なくとも夫の側に決闘自体を隠したい何かがあったのであろう。とまでは推察できるということです。


いつも映画と同じように真実が読み解けるわけではありませんが、少なくとも人間の証言のあいまいさ、そして曖昧さを排除して真実に近づく方法について伝わったのではないでしょうか。

田村勇人
「弁護士がすすめるビジネスパーソンが観るべき映画
~人間関係を映画で学ぶ~」(了)

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職場コミュニケーション活性化講演会、医療現場課題解決講演会などができる田村 勇人弁護士法人 フラクタル法律事務所 代表弁護士
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