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宇都出雅巳【第4回】ゲーム・チェンジャーのシンプルとは – 速読勉強術のプロ まとめてグルグル10冊書評 season2
【コラムジャンル】
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2016年12月08日
『シンプルに考える』の中にある一通り経営学を学んだうえでの表現
前回のコラムで、「森川氏、青山学院大学大学院でMBAを取得されています。なので、戦略論などは一通り学ばれているわけです。にもかかわらず、本書にはMBA用語は出てきません。このあたりのことも『シンプルに考える』の中で触れられています。」と、お伝えしました。
次に引用するのは、森川氏がLINE株式会社の前身にあたるハンゲーム・ジャパン株式会社に入ったころの経験を語った箇所です。
「日本テレビ時代にMBAを学んだ僕は、さまざまな経営指標や分析手法を使って戦略を立案しようとしました。SWOT分析、ROA、ROE……。しかし、誰も理解してくれませんでした。いや、理解しようとすらしてくれなかった。当然です。彼らはゲームづくりのプロ。そもそも、そうしたことに関心がない。「そんなことより、とにかく“いいもの”をつくることが大事じゃないの?」そう言われて、目からウロコが落ちました。まったくもって正論だったからです。」(P137)
刺激的な言葉も、一通り、経営学を学んだうえでの表現としてとらえると、また違って感じられます。第2章以降の節タイトルにも、経営学の常識に反するような挑発的な言葉が並びます。そのうちのいくつかを挙げると……
「空気」を読まない―職場の批判よりユーザーを恐れる
「モチベーション」は上げない―やる気のない人はプロ失格
「ビジョン」はいらない―未来を予測するより、目の前のことに集中する
「計画」はいらない―計画があるから、変化に弱くなる
「情報共有」はしない―余計な情報を知れば、余計なことを考えるだけ
「差別化」は狙わない―ユーザーは「違い」ではなく、「価値」を求めている
いかがでしょう? この本をまだ読んでいない人は読みたくなったのではないでしょうか? 最後に挙げた節タイトル「『差別化』は狙わない」なども、『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』をはじめとする戦略論にケンカを売っているともいえます。
「ゲーム・チェンジャー」になれたものの「シンプル」とは
この「『差別化』は狙わない」では、『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』で「秩序破壊型」の具体例として挙げられているLINEの開発現場で何が起こっていたのか? それを可能にした原動力について書かれています。
「リリース当時、世界にはLINEに似たサービスはいくらでもありました。企画開発メンバーは、それらをすべて調べ上げました。しかし、差別化は狙いませんでした。それらのサービスの利用状況を見ながら、『スマートフォンのコミュニケーションで、ユーザーが求めている最も重要な価値は何か?』と徹底的に考え抜いたのです。その結果、テキスト・メッセージ機能にフォーカスして、シンプルにそれだけを磨き上げていったのです。」(P175)
さて、ここからわかることは何でしょう?
そうです。LINE以外にも「ゲーム・チェンジャー」はたくさんいたのです。ただ、その中で生き残ったのがLINEだったということです。『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』では、数多くの成功した「ゲーム・チェンジャー」たちが挙げられています。ただその陰には、さらに多くの「ゲーム・チェンジャー」になろうとしてなれなかった会社、人たちがいるのです。この「見えない部分」を見る努力をしないと、『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』のような過去の成功例を分析したものを本当に活かすことはできないでしょう。
これは『シンプルに考える』でも同じです。本書で書かれていることをあなたの会社で行っても、同じようにうまくいくとは限りません。大事なのは、シンプルに考え、常に本質、原理原則を見つめて、そこから行動していくことしかないでしょう。
そして、だからこそ、シンプルに本質と原理原則を示してくれる『シンプルに考える』は、あなたの仕事、そして経営にとって役立つのです。
『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』のおわりに書かれた大事なところ
今回の2冊の“競争”では『シンプルに考える』を推しているように聞こえるかもしれませんが、本にはそれぞれの役割があるので『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』ももちろん役立ちます。そして、『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』も、大事なところはしっかり押さえられており、「おわりに」にはこう書かれています。
「(前略)まず、顧客視点で、既存事業の矛盾や消費者の潜在的ニーズ(アンメットニーズ)に着目することが必要です。本書でも、さまざまな事例を紹介しましたが、顧客の不満は宝の山です。」(P197)
そしてさらに、次のように書かれています
「とはいえ、顧客が、まだ経験したことがないものに対してニーズを口にすることはありません。そうなると、企業が自分の視点でビジネスや戦い方を考えることが重要となります。企業視点で考えるときには、本書で提唱した「ゲーム・チェンジャーの4類型」の横軸か縦軸のどちらかひとつ(あるいは両方)を動かしてみてください。」(P198)
顧客(ユーザー)について『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』と『シンプルに考える』を比較
顧客視点、顧客志向といっても、単に顧客の声だけを聞いているだけではいけない。実はこのことも『シンプルに考える』では、最終章の最後の節「ユーザーは「答え」を教えてくれない―ユーザーの声を掘り下げて、自分の頭で考える」で触れられています。『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』の先ほど挙げた箇所と比較しつつ読んでみてください。
「ユーザーは『本当の答え』を教えてはくれません。
だから、ユーザーの声を表面的に聞くだけでは『道』を間違えます。大事なのは、ユーザーの声を深く掘り下げて、『ユーザーが本当に求めているものは何か?』を自分の頭で考え抜くこと。それが、イノベーションを起こす方法だと思うのです。」(P191)
さて、比較してみていかがでしょう。同じではないですよね。といいますか、大きく違います。どちらが正しいという話ではありませんが、こういうふうに対照的な2冊の本をグルグルさせることで、より2冊の主張が際立ち、読者であるあなた自身の考えも自覚され、学びも大きくなることがわかってもらえたでしょう。
本と本が共鳴し、さらにグルグルは続いていく
なお、これはまさに蛇足ですが、先ほど挙げた『シンプルに考える』の最後は、「それが、イノベーションを起こす方法だと思うのです」と締められていました。イノベーションといえば、昨年、あの大ベストセラー『もしドラ』の第二弾が出版されましたが、そのテーマが「イノベーション」。ドラッカーといいますか、岩崎夏海氏が考える「イノベーション」とは何か? 知りたくなってきませんか?
という具合に、本と読み手、本と本が共鳴し、さらにグルグルは続いていくのです……。
今回はこのへんで。
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速読勉強術、仕事のミスをなくすビジネススキルに関する講演、研修などができるトレスペクト教育研究所代表 宇都出 雅巳 講師のプロフィールはこちら