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松本麻美【第5回】活かせるはずの外国籍社員を逃してしまうのは企業にとって大きな損失 – 専門家が語る「本当の多様性」への現状と課題-実現へ向けて今企業ができること-
「多様な才能を最大限活用するための鍵は受け入れ企業が握っているのではないでしょうか。」
企業価値を実現することを目標に、政府が新たに打ち出した「ダイバーシティー2.0」今、企業が考え行動しなくてはいけない事を分野ごとの専門家が課題、現状を解説。
(※本記事は、2018年1月1日発行のノビテクマガジンに連動した詳細記事です。)
外国人雇用がうまくいかない3つのポイント
松本麻美
人材の募集から採用後まで、それぞれの段階において課題が存在します。①募集要項が外国籍の方に魅力的に見えるものではない、②採用後の受け入れ体制が整っていない、③早期に辞めてしまった場合「外国人採用」がトラウマになり次に続かない。という3点が外国籍社員を迎え、活かすことができない悪循環を作っています。
募集要項が魅力的に見えない原因としては、多くの外国籍の方は基本的な勤務条件を記した「求人票」に加えて、職務内容について詳しく記したJob Descriptionを必要としているからです。キャリアの中で専門性を極めたい外国籍の方にとって、仕事内容に対する情報量が少ない求人票では自分のキャリアパスと照らし合わせて判断することが難しいため応募し辛くなってしまいます。
採用後の受け入れ体制はとても重要で、弊社では評価制度とマネジメント能力の2点に注目しています。評価において一般的に日本人は公平性=Equalityを好むのに対し、外国籍の方は公正性=Fairnessに敏感です。以前、日本企業へ就職した外国籍エンジニアの方が、自分よりハイスキルな先輩の給与が自分以下だと知り、評価に不満を抱いたという話がありました。また、マネジメント面では、日本社会で育った者が身につける当たり前を外国籍の社員に期待し、馴染みのない価値観、文化を押し付けて日本人化させようとすることで失敗するケースがあります。
外国籍社員の採用、マネジメントが成功につながらないのは、自社の体制を分析せずすべてを「外国人だから」という理由にすることで、本当の原因を追求しないからです。外国人採用はリスキーだ、と構えてしまう前にとるべき体制、施策を考えることが必要です。
現状の課題を可視化して改善する
企業が目の当たりにしている課題の原因を追求していくことは非常に有益です。例えば離職率が高いという課題に対し、社員の声を可視化し原因を探る方法があります。経営層の肌感覚の分析に頼らず、社員の生の声に基づいたデータを集めるのです。客観的なデータは、外国籍社員がいるなどチームに多様性がある場合、「外国人だからすぐ辞めた」と属性のみによる判断を防ぎます。
弊社では、外国籍社員が長く企業で活躍できるよう定着支援のための調査サービスを行なっています。ここで提供しているものは社員のやりがいや給与、働き方等に対する声をデータで集め可視化した資料です。現状の把握なしに正しい改善は行えませんので、社外の力を借りてみるということは一つの方法だと思います。
まずは「外国人採用」の捉え方を見直すことから始める
まずは、「外国人採用」への捉え方を見直してみることです。ある企業の担当者の方が、「外国人と日本人が働きやすい環境は実は同じだと思う」と言っていたことが印象的で、ここに多様性の本質があるのだと思います。外国籍社員の入社は国籍を問わず意志や能力のある社員が働きやすい場を作る良いきっかけである、と捉えたときから会社全体の取り組みになります。
もう一点大事なのが、グローバル化の名の下行われる採用の「グローバル化」とは一体何を指しているのか、自社なりの定義を経営層から一般社員に浸透させることです。最終的に人事部のゴールが外国籍と日本人社員の在籍割合の操作になった場合、意味のないゴールとなってしまいます。
この2点は、これまで述べてきた課題の根本に何かしらの形で関わってくるものです。採用は始まりに過ぎません。多様な才能を最大限活用するための鍵は受け入れ企業が握っているのではないでしょうか。
松本 麻美 (まつもと あさみ) プロフィール
アクティブ・コネクター株式会社 CEO/Founder
女子学院高校2年次中退の後、経団連の奨学金を受けて英国United World Collegeに留学。McGill Universityにて開発学、政治学を学ぶ。その後東京大学大学院教育学研究科/比較教育社会学専攻で修士課程修了。外資系金融機関で修了後のキャリアをスタートした後、NGOと日本政府のパキスタン開発援助案件に携わる。2013年にアクティブ・コネクター株式会社を起業。現在、同社代表取締役として日本企業のグローバル人材採用・マネジメントの問題解決に取組む。
専門家が語る「本当の多様性」への現状と課題(了)