働き方・生き方
HUMAN RESOURCE DEVELOPMENT 人材育成
イクボス式リーダーシップとは
“イクボス”で問題解決!?
川島高之×八坂貴宏が語る、これからの時代のリーダーシップ像
働きやすい職場に欠かせない存在として注目を浴びている「イクボス」。正しい意味を理解して、より良い組織作りに活かしませんか?
2014年から「イクボスプロジェクト」をスタートさせたNPO法人ファザーリング・ジャパンの川島高之さんと八坂貴宏さんに、ノビテクマガジン編集長の岩崎知佳がお話を伺いました。
八坂貴宏氏 川島高之氏
時代が求めるリーダー像
– 「Fathering=父親であることを楽しもう」として、講演・セミナーや各種イベントなどの父親支援事業を行っているファザーリング・ジャパン(以下「FJ」)。お二人が所属されているこの団体が広めてきた「イクボス」が、今、たいへん注目されています。基本的な質問なのですが、いったいどんなボスのことなのでしょうか?
一言で言うと、“ワークハード&ライフハード”を、自分も部下も共に実現しているボスのことです。FJでは「職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランス(仕事と生活の両立)を考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)のこと」と説明しています。ちなみに私は次の三つを定義しています。
「育児をしている上司」とよく勘違いされますが、育児をしているかどうかは関係ありません。また、「育児をしている部下に配慮する上司」も間違い。私生活には他にも色々ありますから、あえて育児に特化する必要もありません。あと、ボスというと男性っぽく聞こえますけど当然ながら女性も含まれます。
– では、イクメンとイクボスの違いはどのように理解をしたらよいでしょうか? また、イクボスを普及するにあたっての感触を教えてください。
イクメンというのは育児をしている男性のことで、それ以上でも以下でもありません。仕事をしていてもしていなくても、成果を出していてもいなくても該当します。一方イクボスは仕事でもしっかり成果を出すことが前提です。
一昨年の4月にプロジェクトのキックオフイベントを行った際にすごく盛り上がって、一気に広がった感じがします。イクメンよりも圧倒的に手応えがありましたよ。実際、プライベートでも研修の現場でも“困った上司”の話は非常によく耳にします。たとえば子どもが熱を出して妻が面倒を見られない時に、夫である男性社員が休みを取ろうとしたら怒られたとか、とりあえずメンバーを招集して、ゴールの無い話が何時間も続く会議をするとか。
改革すべきは粘土層の意識
– イクボスが必要とされるようになった環境や背景には何があるのでしょうか?
労働力不足や女性の活躍推進の必要性、国際競争などですね。少子化が進み労働人口の減少を避けられない中で、出産・育児あるいは介護による離職を防ぎ、男女共にフレキシブルに活躍する必要があります。世界を相手に戦い続けるためにビジネス戦略のさらなる効率化も必須です。
にもかかわらず、日本の労働生産性は先進国の中でも最低レベルなんですよね。
そう、実はこれらの諸悪の根元にあるのは、管理職層の古い価値観に起因する“長時間労働の文化”です。カルビーの松本晃会長も長時間労働の弊害を提唱し好調な業績を収めていますが、本質はイクボスプロジェクトと全く同じです。あらゆる問題の根っこにあるのは、いわゆる「粘土層」と言われる、40代以上の中高年男性が多く占めている管理職層・経営層の意識。これを変えずして問題は解決しません。
この層にリーダーシップ研修などを行うと「上からは短期で成果を求められているのに、部下のやる気がなくて困っている」という声をよく耳にします。でも、昔のように24時間働ける社員を採用するのはもう不可能。川島さんがおっしゃたような時代の背景をまず説明し、理解してもらった上で、今のメンバーで、今まででは考えられないような最大の成果を出す方法を考えてもらっています。
イクボスは経営戦略であり、“自分ごと”でもある
– 会社と仕事に多くの時間を投資してきた粘土層の方々の意識を変えるためには、どのようなアプローチが効果的でしょうか?
私の場合、講演会などでは、社長として会社を経営してきた経験を元に話をしています。イクボスになった目的は3つあって、まず1つは業績を上げるため。社員一人ひとりに最大のパフォーマンスを発揮してもらうには仕事だけでなく私生活も充実させてもらうのが良いと思ったし、実際に効果的でした。2つ目は、私自身が早く家に帰り、私生活に時間を使いたかったから。子どもと遊んだり、趣味などのやりたいことをしたり。無駄な会議なんてしているヒマはありません。3つ目は、将来のリスクへの備えです。今仕事しかすることの無い人間になると、退職後の生活に支障が出ると思いました。だから、イクボスになるのは決して会社のためだけではなく、“自分ごと”なのだと、そのように伝えています。
24時間働くロールモデルの背中しか見てきていない世代だから、単純に「私生活も大事に楽しみましょう」と言っても響かない人もいます。仕事は楽しいし他にやることもないし、って。その場合、人脈の意味を再構築してもらう研修の方法があります。これを経て、定年後に友達がいなくなると気づくケース、あるいは偏ったビジネス環境に危機感を抱くケースがあります。いずれにしろ、私生活を充実させることが自分にとって価値があると知ってもらえるようアプローチをしています。
– “自分ごと”にすることがイクボスへの第一歩なのですね。組織にも個人にもいいことづくめのイクボス、ますます広がっていきそうです。
多くの企業にとって人材は最大の資産。優秀な人材に活躍してもらうためには「働きがい」と「働きやすさ」の2軸が不可欠です。能力を発揮でき、将来のキャリアパスにつながる経験ができるかどうか(=働きがい)、そしてワークライフバランスを実現できる環境があるか(=働きやすさ)。それらを整えることは経営戦略の一環だと思います。たまたまイクボスという言葉で表現しているだけで。
時代や環境の変化に気づいてはいながらも部下への対応に悩む管理職層がいる一方で、もっと上司に存在を認めてほしい、関わってほしいと願う若手層もたくさんいます。夜の時間をたっぷり使って飲みに行かなくても「子どもの運動会どうだった?」「週末何してたの?」などちょっとした会話が仕事上のコミュニケーションを円滑にしてくれます。マネジメント上の課題のほとんどは、イクボス式リーダーシップで解決できるのだと、もっと知ってほしいですね。
対談を終えて・・・
仕事を効率的に進めることで無駄な長時間残業はしない!させない!
それでいてお客様や社員に信頼されるリーダー、それがイクボスです。
川島高之さん、八坂貴宏さんの対談はいかがでしたか。
こちらのweb特別対談では、『イクボスの基礎中の基礎』を徹底的に理解していただくためのコンテンツとして仕上げました!イクボスの概念、勘違いされやすいポイント、イクボスが注目される背景など、おわかりいただけましたでしょうか。
仕事もプライベートも充実し、いつも快適な状態であることは理想ですが、“でも”実際は、現場の人手不足や、毎日の膨大な業務、疲労からのモチベーションダウンによって、理想とは程遠いという現状の方も多いのではないでしょうか。
それを解決するのが「イクボス」です。
(ノビテクマガジン編集長 岩崎知佳)