働き方・生き方
HUMAN RESOURCE DEVELOPMENT 人材育成
江口克彦【第3回】魂と魂のぶつかりあいがないところに大きな成果は生まれない – 人間観なきところに人は育たず。
人間観なきところに人は育たず。
「目標を声高に言って生まれるものではない。心の根幹で接することで生まれるものなのです。」
江口克彦には3つの顔がある。1つ目は、政治家としての顔だ。現在、「みんなの党」の最高顧問をつとめ、「道州制」実現を目指して精力的な活動を続けている。2つ目は、松下幸之助のもとで23年間薫陶を受け、その哲学を広めてきた著者・講師としての顔。そして、3つ目は、PHPグループを永年率いた経営者としての顔。江口は慢性的な赤字体質だった同グループを短期間で長期的な黒字経営に転換させた実績を持つ。これらの経験から導き出された「人材育成の哲学」を中心に聞いた。
本間貴史 ≫ 文 櫻井健司 ≫ 写真
(※本記事は、2013年10月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
魂と魂のぶつかりあいがないところに大きな成果は生まれない
さて、話を本題に戻します。なぜ、リーダーに熱意が欠かせないのか。これは現実を考えてみれば簡単です。もし、あなたの上司がものすごい熱意をもって仕事にあたっていたら、部下である自分も負けずにがんばろう、という気持ちになるでしょう。さらに、そのあなたの姿を見たら、上司もさらにがんばらねば、という思いになるでしょう。「リーダーの熱意は、部下の熱意を引き出す」ということですね。そして、リーダーと部下がお互いに燃えるような熱意を持つようになると、「魂と魂のぶつかりあい」が生まれる。その結果、仕事がうまくいくようになるのです。
「リーダーと部下の魂と魂のぶつかりあい」がないところに大きな成果は生まれない
PHPの黒字経営が実現できたのは、私に経営能力があったからではありません。私と社員の魂がぶつかりあい、全社員がひとつの火の玉のような熱意の固まりになったからこそ実現できたのです。これは、部署、チーム単位でも同じです。いくらその人が優秀でもリーダーひとりの能力には限界がある。「リーダーと部下の魂と魂のぶつかりあい」がないところに大きな成果は生まれないのです。
たとえば、社長時代、私は経営方針発表で、3時間休みなしで社員に話すのが当たり前でした。それもただ話すのではない。熱意を込めて全身全霊で社員にぶつかっていました。3時間通して話しても、誰ひとり居眠りをする社員がいない。社員が真剣に話を聞いていた証拠に、私がちょっとずれたことを言うと、みんなの顔が一斉に「あれ?」という顔になる。だから私の方も一瞬たりとも気が抜けませんでした。まさに「魂と魂のぶつかりあい」でした。
経営方針発表の内容では、数値目標の話はわずかで、「人間の幸せとは何か?」などというテーマに大半の時間を割いていました。会社の公式の場で、なぜ人間の幸せを語るのかといえば、私たちにとって「仕事は、あくまでも幸せになるための手段」だからです。つまり、人生にとって仕事が主ではないのです。仕事を通して、人間が、自分が幸せになることなのです。これは、家庭においても同じことがいえます。一家団らんが実現しているから幸せなのではない。家庭という手段を通して、父、母、子のそれぞれが人間的能力を希求していくことが真の幸福につながっていくのです。
では、仕事や家庭が幸福の手段であるなら、真の幸福とは何か。これは、「一人ひとりの人間が、もって生まれた人間的能力を100%発揮すること」に尽きます。
だから私は社長をしていた頃、社員に「あなたは自分の能力をすべて出し切ったと思うか?」とよく尋ねていました。
たとえば、営業であれば、一人ひとりに売上目標が設定されているわけですが、それを達成することが大事なのではありません。80%しか達成できなくても、能力を出し切っていればそれで良いのです。逆に、目標を達成しても、能力を出し切っていなければ意味がありません。この「日々、能力を出し切る」積み重ねが、「能力を出し切った人生」につながっていく。能力を出し切るとは、「手を抜かない生き方をする」ということです。
人は誰しも、過去に戻ることはできない。一分前にも、一秒前にも戻ることはできません。死ぬときに「もっと努力をしておけばよかった」と思うことほど無残なことはない。逆に「自分はできる努力をすべてやり尽くした」と思える人生は幸福です。
勘違いしていただきたくないのは、リーダーは幸福論を説かないといけないということではありません。「魂と魂のぶつかりあい」というのは、目標を声高に言って生まれるものではない。心の根幹で接することで生まれるものなのです。この部分が大切です。どのような内容を部下に話すかは、それぞれのリーダーによって異なるでしょう。
講師紹介
江口克彦(えぐち・かつひこ)
PHP総合研究所(現PHP研究所)元社長みんなの党 最高顧問/参議院議員1940年(昭和15年)、愛知県生まれ。慶応義塾大学・法学部卒業後、松下電器産業入社。昭和42年、PHP総合研究所へ異動。以後、松下幸之助の側で23年間にわたり、薫陶を受け続ける。同社の常務取締役、専務取締役、副社長などを経て、平成16年、社長に就任。平成21年に退任後、参議院議員となる。
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松下哲学、松下経営の伝承者株式会社江口オフィス代表取締役/経済学博士
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