働き方・生き方
HUMAN RESOURCE DEVELOPMENT 人材育成
江口克彦【第4回】考えて、考えて、考え抜いた先に「人間観」が見つかる – 人間観なきところに人は育たず。
「「理と情のバランス」が大事」
江口克彦には3つの顔がある。1つ目は、政治家としての顔だ。現在、「みんなの党」の最高顧問をつとめ、「道州制」実現を目指して精力的な活動を続けている。2つ目は、松下幸之助のもとで23年間薫陶を受け、その哲学を広めてきた著者・講師としての顔。そして、3つ目は、PHPグループを永年率いた経営者としての顔。江口は慢性的な赤字体質だった同グループを短期間で長期的な黒字経営に転換させた実績を持つ。これらの経験から導き出された「人材育成の哲学」を中心に聞いた。
本間貴史 ≫ 文 櫻井健司 ≫ 写真
(※本記事は、2013年10月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
考えて、考えて、考え抜いた先に「人間観」が見つかる
能力を出し切るとは、「手を抜かない生き方をする」ということです。
もうひとつリーダーに必須の要素があるとしたら、それは「人間観」です。
冒頭(第1回)でもお話しましたが、松下幸之助は「人間大事」という人間観をもっていました。そして、この人間観があったから成功できた。松下幸之助は、売りたいがために、「いいものをつくらねば」と思って、ものづくりや経営をしていたのではありません。「偉大な存在である人間には、それにふさわしいもの、最高の商品を届けなければならない」という考え方を常に持っていた。この原点を軸にして生きたから成功をおさめたのです。
私自身の人間観も松下幸之助と同じです。これは、私が永年、あまりにも近い位置で松下幸之助と接してきたからでしょう。私の今の人間観や価値観のどこまでが自分自身のものなのかわからないというのが正直なところです。だからといって、松下の「人間大事」の精神を簡単に理解できたわけではありません。いまも不十分だと思います。ですから、松下幸之助の言葉の字面だけでなく、行間を読み込み、その背景に思いを馳せながら、考えるようにしています。
もちろん、人間観というのは一人ひとり異なります。あなたには、あなた独自の人間観があるはずです。では、それをどのように見つければよいのかといえば、「考えて、考えて、考え抜く」しかありません。人間とはなにか。「考え抜く」ことが大切です。
今回、私がお話したことは、直接、人材教育に活かしにくい内容かもしれません。しかし、人材教育に携わる方々には、「人を育てるとは何か」「リーダーに大切な要素とは何か」の根本を知っていただきたいとの思いから、このような話をさせていただきました。
ひとつだけ補足をすると、私がここで話したことは、リーダーに必要な「情」の部分です。これに加えて、理念・目標・計画といった「理」もリーダーは備えなければいけない。しかし、最近のリーダーの方々は、あまりにも「理」に偏りすぎています。正しいことを言えば、それだけで人がついてくるという考え方は間違っています。リーダーたるもの、「自分の考えは正しい。その考え方についてこられない人は切り捨てる」という考え方を絶対にしてはいけません。要は、「理と情のバランス」が大事だということですね。
これらのことを意識しつつ、教育担当者が、人材育成、リーダー育成を進めれば、将来の日本には魅力的なリーダーがたくさん生まれるはずです。
江口克彦がとくに感銘を受けた松下幸之助の言葉[リーダー編]
- 人間大事。すべては人間のために。
- 人は、理屈だけでは動かない。理に情をつけなければいけない。
- 感動のない経営では、人は動かない。
- 人間観がなければ、人を使ってはならない。
- 方針(=基本理念+具体的目標+最終目標)を明確に示せ。
- 熱意と誠意と素直な心が成功の秘訣やな。
- 部下は大将を見て動く。
- 世のため、人のために行動せよ。
- まず「正しさ」を考えてから、行動せよ。
- あとはわしが対応する。心配するな。
- 人の上に立つ者は「愛嬌」がないといけない。
- いくら儲けるかではなく、どれだけ世の中に役立つかを考え行動せよ。
- 大将は大将。参謀は参謀。参謀の意見を聞きつつも、大将は自分で結論を出し、責任を持て。
- 部下によく声をかけよ。部下によく尋ねよ。
- 窮屈はあかん。窮屈は人を成長させんし、幸せにせんな。
- 和を貴び、衆知を集め、主座を保つ、これが日本の伝統精神や
- 部下と話すとき、心の中で手を合わせながら話をせんといかん。
- 人間の幸せは、その人が持って生まれた天分を発揮することや。金持ちも名声も関係ない。
- 悪意から、なにが生まれるというのか。
- これからの日本を思うと、夜も寝れんわ。なんや寂しくなるな。
江口克彦 – 人間観なきところに人は育たず。(了)
講師紹介
江口克彦(えぐち・かつひこ)
PHP総合研究所(現PHP研究所)元社長みんなの党 最高顧問/参議院議員1940年(昭和15年)、愛知県生まれ。慶応義塾大学・法学部卒業後、松下電器産業入社。昭和42年、PHP総合研究所へ異動。以後、松下幸之助の側で23年間にわたり、薫陶を受け続ける。同社の常務取締役、専務取締役、副社長などを経て、平成16年、社長に就任。平成21年に退任後、参議院議員となる。
講師への講演依頼はノビテクマガジンで!
松下哲学、松下経営の伝承者株式会社江口オフィス代表取締役/経済学博士