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堤康之【第8回】贈与から始める相続税対策 – 公認会計士が書く!ついつい誰かに話したくなるお金のこと
このところ相続税対策の話があちらこちらで花盛りです。以前のコラムにも書きましたが、平成27年度より相続税の基礎控除額(※)が大幅に引き下げられたことによります。
(※)相続税の基礎控除額とは、相続税の計算時に相続財産から差し引くことのできる
控除額のことで、要は相続財産が基礎控除額の範囲内であれば相続税はかかりません。
以前は、5000万円 + 1000万円 × 法定相続人の数
平成27年改正後は、 3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
相続の典型事例としてでてくる、旦那さんがなくなり、相続人が妻と子供2人の計3人の場合、以前は相続財産から除かれる基礎控除額が8000万円(5000万円+1000万円×3人)あったのが、4800万円(3000万円+600万円×3人)に減ってしまったわけです。
もしも、都市圏に自宅を所有している家族であったならば、「うちは多少の老後資金は貯めているけれど、相続財産というほどのものなんてないよ!」と思っていても、自宅の評価額(特に土地の評価ですね)いかんによっては基礎控除額を軽く超えてしまう可能性があります。今までは相続に苦労するのは資産家特有の贅沢な悩みだったものが、いやなことですが、相続税が一般の人々にもぐっと近づいてきてしまったのです。
参考までに相続税の税率は下記になります。
相続税の計算は、相続される全ての財産から、基礎控除額(3000万円 + 600万円×〇人)をマイナスした課税対象額に対して、上記の表を使い算出します。課税対象額がわかれば、右欄の税率を掛け、最後に控除額をマイナスすれば相続税額が算出されます。
ただ、実際の相続税の計算では、非相続人(亡くなられた方)の妻を対象とした配偶者控除(ざっくり言うと相続人である妻は1.6億円までの相続であれば相続税は支払わなくて済む)や、小規模宅地の特例(相続財産である居住用の宅地等の評価が特定の条件にあてはまれば80%減額して評価する、要は相続対象物の評価額が下がるので課税対象額が小さくなる)など、色々と個別の評価・計算を行いますので、あくまでも目安として捉えて下さい。
大丈夫でしたか? 無事、基礎控除額の範囲に収まっていますか?
持家の評価によっては思いもよらず、「あれ!? 基礎控除額を超えてしまっている…」という人もいたのではないでしょうか?
もし収まっていればあとは他人事!気楽に読んで下さい。
以上のような理由で、相続に関連して様々な事業者による、相続対策セミナーがいま花盛りなわけです。
実際に相続対策や相続税の申告を行う税理士、相続税を安くするために物件を販売したい不動産業界(現金で相続するより不動産で相続したほうが評価額が低くなる場合が多い)、保険業界(相続時に死亡保険の非課税枠が使え課税財産を減らせる)、信託銀行(各種手続き代行)などが主催するセミナーが毎月どこかで行われています。
さて、相続の説明が続いてしまいましたが、今日の本題は『相続』を議論するならまず『贈与』を検討しましょう、という内容です。
相続対策祭りにはあまり踊らされないでね!ということです。
相続対策を考える
相続対策を考える場合、最年長者を筆頭に、親世代が亡くなる順番、引き継ぐ財産の内容、その配分をシミュレーションします。
どう考えても財産が有り余っていて死ぬまでに使い切れるわけない!というお金持ちは、今から徹底的に対策を行えばよいでしょう。不動産、保険、いろいろできることはあります。
難しいのが、資産家ではないけど前述の基礎控除額は数千万超えそうで相続税は発生しそう.. でも、想定より長生きをしたり、思わぬ大病を患い想定外の出費がかかってしまった場合には事情が変わってしまう.. というような新規の相続税支払対象者層(改正前の基礎控除の範囲では相続税は発生しないけれど、改正によってひっかかるラインの人々)の相続対策を、いつから?どこまで?する必要があるかということでしょう。
日本人の平均寿命はどんどん伸びてきており(2014年度で、男性80.5歳 女性86.8歳 だそうです)、いったい死ぬまでにいくらお金が必要なのか?が高齢になってからでも分かりづらくなってきました。「老後資金は夫婦で××千万円が必要!」というような、必要以上に老後破綻を強調するニュースや雑誌記事も事態を混乱させているように見えます。
老後の必要資金の計算は、家族、持ち家の状況、将来貰える年金の額など、個別の家族ごとに計算しないと一概には言えません。相続対策を考えるときには、まず老後資金の計算など本来は家族で異なる基礎的条件のシミュレーションから考えなくてはいけません。
最近は、ホームページ上でシミュレーションしてくれるサイトがいくつもありますので、お暇な時に「老後資金 シミュレーション」で検索してみましょう。
最近よく目にするケース
子供への住宅資金贈与、孫への教育資金贈与など、次世代への贈与を積極的に行っているケースです。親世代が早い段階で財産を渡しすぎていて、もし親世代が病気になったら結局渡したお金で子供に面倒をみてもらわなければいけないのではないか?と心配になる時があります。いや、むしろ子供に見捨てられぬために今から恩を売るという戦略なのかもしれませんね!
まるで自分が死ぬ時に財産がきっちりなくなってしまうように計算をしているようです。相続財産をゼロにするのが相続対策ではなく、相続税をいい塩梅に減らすようにするのが相続対策です。
また、真逆の例では外から見ると十分な財産を持っているのに、老後の資金が心配でとても相続対策や贈与など考えられないというケースです。これは前述の老後資金をきちんと把握できていない時に多くみられます。
ぎりぎりになってバタバタと慌てぬようにするには、計画を立てて『早め』に『粛々』と対策を実行することが重要です。ポイントは、「早め」、と「粛々」で、考えるのは早い方がよく、数年ごとに見直しをしながら状況に応じて打つ手を打っていくということです。
前述のように、不動産や保険などさまざまな商品を使った相続対策がありますが、まず簡単にできる方法として、次世代への生前贈与があります。基礎控除額を超えそうな額を早めに次世代に渡していくわけです。
贈与を使えば、子供だけでなく孫世代に直接財産を渡すこともできます。最近は流行っているのが、信託を使った教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与などです。これらの贈与制度を有効に使えば、親世代の財産を効率的(要は税金を払わず)子世代に移転させることができ相続対策にもなります。
まとまった額を次世代に渡してしまうのに不安がある人は、贈与の一般的方法である暦年贈与を、身の丈にあった額で毎年検討してみてはどうでしょうか?
暦年贈与であれば、毎年110万円以内の贈与は非課税であり、一気の財産移転ではなく、少額ではありますが、状況をみながらの財産移転を行うことができます。
まずは暦年贈与を行っておいて、状況が揃った時に次の大きな財産移転を考えたほうが、まだ先が見えない時には安全です。お金を渡しすぎた!考えてはいたのだけど結局相続対策に踏みけれず結構な相続税を払うことになった!という両極端の失敗をしないよう『早めに』『粛々と』進めましょう。
新規の相続税支払対象者層の相続対策
①老後資金のざっくりとしたシミュレーション(自分でやろう、無料ホームページの活用)
②少し余裕が見えたなら、最初は少額の贈与(自分でやろう、簡単なガイドブックの活用)
③もう少し余裕ができたら教育資金の一括贈与などのまとまった贈与(セミナーなどの活用)
④資産家と呼ばれるような立場までになったら不動産等の大きな対策(セミナーなどの活用)
以上が、新規の相続税支払対象者層の相続対策です!
相続対策祭りへの参加は、大きな財産移転が見えてからで十分なので、あまり対策を繰り返して踊り疲れてしまわないように!
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