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室山哲也【第1回】好奇心こそ科学を探求する出発点
好奇心こそ科学を探求する出発点
「もともとは科学が好きではなかった」
『ウルトラアイ』『クローズアップ現代』『NHKスペシャル』──。誰もが知っている番組の制作に携わり、解説主幹としてカメラの前にも立ってきた室山哲也氏。とっつきにくい科学の話をわかりやすく、興味がそそられるように伝えるプロフェッショナルだ。万人を惹きつける番組作りの極意を披露してもらうと同時に、その経験を生かした講演活動の魅力に迫った。
中澤仁美≫文、櫻井健司≫写真
(※本記事は、2020年1月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
室山哲也(むろやま・てつや)
日本科学技術ジャーナリスト会議副会長/元NHK解説主幹/大正大学客員教授/東京都市大学特別教授/科学ジャーナリスト プロデューサー
1953年、岡山県倉敷市生まれ。1976年にNHKへ入局し、科学・環境番組部で『ウルトラアイ』『クローズアップ現代』『NHKスペシャル』などの番組を手がけ、チーフプロデューサーに。解説主幹としても活躍したが、2018年に定年退職。現在は複数の大学で教鞭を執るほか、主に科学をテーマにした講演を数多く行っている。モンテカルロ・テレビ祭ゴールデンニンフ賞、シルバーニンフ賞、レーニエ3世賞など受賞歴多数。産業構造審議会委員や宇宙科学評議会評議員なども歴任。日本科学技術ジャーナリスト会議副会長、元NHK解説主幹、大正大学客員教授、東京都市大学特別教授。武蔵野美術大学講師。
まさかの異動がきっかけで科学番組の作り手に
「もともとは科学が好きではなかった」
40年近くにわたりNHKで科学番組の制作に携わった室山哲也氏が冒頭に発した言葉は、なんとも意外なものだった。大学時代の専攻は国際法と憲法だったが、ジャーナリズムに興味を引かれてNHKに入局。当初は宮崎放送局で、社会派のドキュメンタリーや報道番組などを数多く手がけた。
「休暇を取って、アロハシャツを着て浜辺で遊んでいたとき、局長から異動を内示する電話を受けました。『次は東京の科学・環境番組部だ』と告げられ、耳を疑いましたね。僕は科学についてまったくの門外漢だったからです」
想定外の人事異動だったが、これが采配の妙だった。ジャーナリズムの精神に基づいて科学分野を取材し、番組としてまとめていくおもしろさに、室山氏はのめり込んでいった。
「僕の最大の武器は、何も知らないということ。たとえノーベル賞を受賞した著名な先生が相手でも、わからないことがあれば『どうしてですか?』と素直に聞けることが、図らずもアドバンテージになりました。テレビ番組を作る上で、知ったかぶりは禁物ですからね」
科学番組としては異例の高視聴率をたたき出した『ウルトラアイ』のほか、『クローズアップ現代』『NHKスペシャル』などを手がけ、チーフプロデューサーとして腕を振るうようになった背景には、こうした精神があった。確かに、自分がわからない番組を作っても、画面の向こうにいる視聴者に伝わるはずがない。
「僕が手がけた番組は、科学について伝えながらも、結局は人間について考えるような内容が多かった気がします。人間の脳や心、遺伝子などをテーマにしたときはもちろん、チェルノブイリ原発事故や阪神・淡路大震災を取り上げたときも、人間と自然科学の関連性に焦点を合わせていたつもりです」
「門外漢」として科学分野の専門家と交流したからこそ、見えてきた問題点もあった。
「自分の研究テーマには精通していても、隣の研究室のことは何も知らない先生が多いことに驚きました。高度に科学が発展してきた今、単一の研究分野だけで何かを成し遂げられることはまれです。何かに特化した〝虫の目〞だけでなく、視野の広い〝鳥の目〞が必須だと感じました。科学コミュニケーションなどの分野がより発展していってほしいと同時に、マスコミも矜持を持って研究を横につないでいく役割を担うべきだと思います」