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室山哲也【第3回】好奇心こそ科学を探求する出発点
好奇心こそ科学を探求する出発点
「前向きな視点を持ち、新たなパラダイムにおける幸せの種を見つける」
『ウルトラアイ』『クローズアップ現代』『NHKスペシャル』──。誰もが知っている番組の制作に携わり、解説主幹としてカメラの前にも立ってきた室山哲也氏。とっつきにくい科学の話をわかりやすく、興味がそそられるように伝えるプロフェッショナルだ。万人を惹きつける番組作りの極意を披露してもらうと同時に、その経験を生かした講演活動の魅力に迫った。
中澤仁美≫文、櫻井健司≫写真
(※本記事は、2020年1月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
室山哲也(むろやま・てつや)
日本科学技術ジャーナリスト会議副会長/元NHK解説主幹/大正大学客員教授/東京都市大学特別教授/科学ジャーナリスト プロデューサー
1953年、岡山県倉敷市生まれ。1976年にNHKへ入局し、科学・環境番組部で『ウルトラアイ』『クローズアップ現代』『NHKスペシャル』などの番組を手がけ、チーフプロデューサーに。解説主幹としても活躍したが、2018年に定年退職。現在は複数の大学で教鞭を執るほか、主に科学をテーマにした講演を数多く行っている。モンテカルロ・テレビ祭ゴールデンニンフ賞、シルバーニンフ賞、レーニエ3世賞など受賞歴多数。産業構造審議会委員や宇宙科学評議会評議員なども歴任。日本科学技術ジャーナリスト会議副会長、元NHK解説主幹、大正大学客員教授、東京都市大学特別教授。武蔵野美術大学講師。
企業人として、大人として幸せな未来のために
室山氏が講演するテーマは幅広いが、その一つがSDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))だ。2015年の国連総会で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で、17のゴールと169のターゲット(より具体的な目標)が設定されている。
「SDGsで掲げられたことすべてに取り組もうとする必要はありません。その企業の特性や現状を踏まえて、できるところから着手すればよいのです。SDGs的な視点を持って活動する企業が信用を集めやすいのはもちろん、そのほうが利益アップにつながるよう社会の仕組みも変化してきました。企業の発展を考えるなら、早く取りかかったほうがむしろ得になるはずです」
SDGsでも重要な課題としてとらえられている環境問題について考えるとき、室山氏の脳裏に浮かんでくるのは、かつて科学番組で共演した子どもたちだ。たとえば、温暖化について話していたとき、「車もエレベーターも我慢して、なるべく息もしないほうがいいよね」と暗い顔でつぶやいた子がいた。
「要は、子どもに教える側の大人が、『環境問題の解決には我慢が必要』という発想から抜け出せていないわけです。苦しいものは続きません。『沖縄のサンゴ礁の海で泳ぐと爽快だ。この環境をずっと残すにはどうしたらよいだろう?』といった前向きな視点を持ち、新たなパラダイムにおける幸せの種を見つけることこそ、持続可能な社会につながっていくのではないでしょうか」
最近はAI(人工知能)をテーマにした講演のニーズも高い。
「僕の場合、『AIを使って稼ぐ』といったテーマにはまったく興味がありません。そもそも、単純にAIを導入すれば業績が上がるわけではなく、使う側が適切な問題意識を持ち、その解決のストーリーを描けていなければ宝の持ち腐れです。
次世代のためにどのような社会を残すべきか、そのために企業はどうあるべきかという大局的な観点からとらえたほうがずっと楽しいテーマだと思いますよ」
ホワイトカラーの仕事の多くがAIに奪われると危惧する声もある。企業人として活躍し続けるためには、何を考えて行動すればよいのだろうか。
「ビッグデータをもとにしたAIは、前例のないことをさせようとするとパニックになります。一方、われわれ人間には未知のことにも何とか対処する力がある。人間ならではの柔軟性はまだまだAIより上ですから、そうした働き方ができているか振り返ってみてはいかがでしょうか」
これからの社会における幸せとは何か。人間らしい働き方とはどのようなものか。よりよい社会を後世に残すために避けては通れない命題をめぐって、室山氏の講演には重要なヒントが散りばめられている。
室山哲也 – 好奇心こそ科学を探求する出発点(了)