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林成人【第12回】相手の心を動かす言葉と行動とは – 研修講師リレーコラム
林成人プロフィール
林 成人(はやし なるひと)
研修講師/研修プログラムデザイナー。
東京大学文学部行動文化学科(社会心理学)卒業後、コミュニケーション教育、表現教育の指導・講師として活動。NPO法人理事として全国の教育現場でコミュニケーション教育の講師を務める。また、研修講師として、金融機関やメーカー、学校法人などで、コミュニケーション研修をはじめ、新入社員研修、チームビルディング研修、ダイバーシティ研修、財務研修、ビジネスインプロ研修、CS調査及び指導、教員向けワークショップ等の様々なテーマの研修で活躍中。
相手の心を動かす言葉と行動とは
私は研修講師であり、研修プログラムのデザイナーでもあります。主にコミュニケーションを切り口とした研修が私の得意領域です。
例えばこのような研修。ミッションはイスに座って本を読んでいる「こーちゃん(サブ講師)」をイスから立たせることです。単に「立って」とお願いしても、こーちゃんはあれやこれや言い訳をして、簡単には立ってくれません。じゃあ、どうするか。立たせるための作戦を練りましょう。こーちゃんはプロの俳優さんなので、どんな役でも演じてくれます。例えば「お母さん」と呼べば「どうしたの、ナルヒトちゃん」と答えます。劇なので人物も場所もどんな設定もOK。作戦の制限時間は90秒間です。90秒以内にこーちゃんをイスから立たせる。いまからグループで作戦を練ってください。20分後に本番です。それではよーいドン!
よくあるのが、ひとりがバタッと倒れて、もうひとりが「すいません、そこの人、AEDを持って来てください!」というもの。次から次ヘと本当によく人が倒れます。他に多いのは電車です。お年寄りが乗ってきて「そこは優先席ですよ。譲ってください」とか。車掌さんが「お客さん、終点なので降りてください。この電車は車庫に入ります」とか。なぜかみんな上から目線だし、「してください」「しなさい」「することになっています」という論法が多いです。童話『北風と太陽』の北風のようなアプローチです。そしてこーちゃんが例えば「わぁ僕、いちど車庫に入ってみたかったんです!」などと答えると、車掌さんは本番中にフリーズしてしまいがちです。想定外の反応に対応できないのです。「自分にとって当たり前のことが相手にとっても当たり前だとはかぎらない」。社会には自分と価値観の異なる人が大勢いる、ということを(知っているのに)つい忘れてしまうのでしょう。頭でわかっていることと実際にできることはちがいます。体験して失敗して初めて気づくことも多いはずです。他のグループの作戦を観て発見することもあるでしょう。
企業研修だけでなく近年は全国の大学や高校に招かれて、授業としてこの演習をやることも多いです。自分とは価値観の異なる相手とどう向き合うか。どうすれば相手の心を動かすことができるか。多文化共生社会において、今後ますます重要になるでしょう。いちどこーちゃんに挑戦なさいませんか。
(※本記事は、2017年4月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)