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岡田晃【第2回】リーダーの言動が士気を高める – 歴史に名を刻んだ名士のモチベーション
過去の名士たちの功績を知り、参考になるものを取り入れるといい。
「これから変わりうる局面に来ているので、ビジネスチャンスはたくさんある。そこに目を向けていくことも大切」
人々のモチベーションはその時代によって変化している。歴史を牽引してきた名士たちのモチベーションはどこにあったのか。「ノビテクマガジンビジネスタレント」のウェブサイトにて「時代を築いたリーダー達」を連載中の経済評論家・岡田晃氏に、本誌ビジネスタレント講演事業・コーディネーターの八波洋介が聞いた。名士たちの士気を高めたモチベーションの源泉をひも解くことで、これからの時代に求められるモチベーションのヒントを探る。
田村知子 ≫ 文 櫻井健司 ≫ 写真
(※本記事は、2016年4月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
リーダーの言動が士気を高める
では、次の江戸時代ではいかがでしょう?
幕府や各藩が傾き始めた江戸中期以降、米沢藩の立て直しを図った上杉鷹山の改革には、モチベーションの向上や経済復興につながる様々なヒントが見つかります。
上杉鷹山の話はウェブサイト「ノビテクマガジンビジネスタレント」で連載中の「時代を築いたリーダー達」でも触れていますね。
ええ。詳しくはそちらに譲りますが、鷹山が行った改革の中でも新田の開墾は、財政再建に大きな役割を果たしました。当時は城下町に住んでいた武士を農村に住まわせて、農民と一緒に開墾に当たらせたんですね。要は、米沢藩は財政難から武士に給料を払えなくなったので、自分で田畑を作って収入を得よということですね。
これに対し、藩内では反発もありました。しかし、鷹山はそこを説き伏せ、協力することが藩のためでもあり、自分のためにもなるというモチベーションにつなげていったのです。鷹山は農民の話を直接聞きに出向き、意見も汲み取ったそうで、それは農民にとってもモチベーションになったでしょう。当時は武士でも身分の低い藩士は殿様に直接会うことは許されなかった。そんな時代に、農民と膝を突き合わせて話す大名なんて滅多にいませんでしたから。
鷹山は数々の民主主義的な言葉を残していますが、自分の殿様がそうした考えだと知れば、モチベーションは自ずと上がりますよね。
経済力の強化が国の発展につながる
明治時代ではいかがでしょう。
NHKの連続テレビ小説『あさが来た』で話題の人物、五代友厚に注目しています。五代は明治維新で活躍した薩摩藩士の一人で、明治政府の最高幹部だったにもかかわらず、2年ほどで政府を辞めて、実業家に転身しています。
それはなぜでしょう?
いろいろあると思いますが、実業家としてのセンスが優っていたのでしょうね。
明治維新以前の幕末、幕府の使節以外の海外渡航は禁じられていた当時に、五代は上海に2度渡ったあと、薩摩藩の使節・留学生19名の1人として、イギリスに派遣されています。これは五代自身の進言によるもので、若い藩士に最先端の学問と技術を学ばせるとともに、武器や機械設備の輸入を直接交渉することが目的でした。五代は実際、紡績機械100台以上の購入と技術者7人を日本へ派遣させる商談をまとめ、帰国後にビジネスを始めます。
もともとの才覚が、イギリスでの経験によって、開花したのかもしれませんね。
五代にはまた、モノを見る目がありました。イギリスが世界最大の大国になった直接的な要因は武力です。しかし、その基盤は経済力にあることを、五代は見抜いていたのです。だからこそ、薩摩や日本がいかに経済力を強化していくかという問題意識があったのでしょう。
先ほどの幸村もそうでしたけど、気持ちだけでなく、知識やスキルが備わっていたのですね。
そうですね。五代は人を巻き込む力にも優れていました。当時は「東の渋沢栄一、西の五代友厚」といわれたそうで、大阪の有力な経済人に出資を募って、錚錚たる企業の設立に関わっています。現在の商船三井や日本郵船、新日鉄住金といった企業のほか、大阪取引所や大阪商工会議所などもそうですね。これらの設立にしても、日本の経済力の基盤を強化するために必要なものを見抜いていたことがわかります。イギリスで感じた問題意識が、五代のビジネスの原動力になっていたのかもしれません。
いわゆる「人たらし」という言葉は、五代のような人をいうのでしょうね。
そうですね。彼は明治政府の役人時代には、新政府の財政基盤を築くために、大阪の豪商たちに献金を要請する役割を担っていました。いわば無理やり献金させる役です。しかしながら、五代はむしろ信頼を寄せられていた。まさに「人たらし」だったのでしょうね。
たとえ意に沿わないようなことでも、「この人のためなら一肌脱ごう」と思えるような関係性があったということですよね。人間関係や人脈を築くことは、いざという時の力になりますね。 それでは最後に、現在のビジネスパーソンが名士たちのようにモチベーションを高めるには、どのようなことが必要だと思われますか?
歴史は単なる過去の出来事ではなく、今の我々に教訓やヒントを与えてくれるものです。まずは過去の名士たちの功績を知り、参考になるものを取り入れるといいと思いますね。例えば、仕事で壁にぶつかった時は、五代のように視野を広げてみる。
今の日本はバブル崩壊の痛手から立ち直ってはいないものの、これから変わりうる局面に来ているので、ビジネスチャンスはたくさんあると思います。そこに目を向けていくことも大切ですね。
そういう意味では今の日本は、モチベーションを持ちやすい時代ですね。どうもありがとうございました。
岡田晃 – 歴史に名を刻んだ名士のモチベーション(了)
講師紹介
岡田 晃(おかだ・あきら)
「ワールドビジネスサテライト(WBS)」等テレビで世界経済や日本経済の解説者として活躍。経済界、労働界、学識者、自治体関係者、報道関係者、NPO関係者など、各界の有志で結成された「新しい日本を作る国民会議(21世紀臨調)」の運営委員も務めている。 また、経済の専門家として、世界経済や日本経済の現状や、今後の見通しについて歴史のアプローチからも分かりやすく解説する。著書:『やさしい「経済ニュース」の読み方』(三笠書房)、『これが高齢化社会だ』(共著、日本経済新聞社)等。
八波洋介(やつなみ・ようすけ)
1977年、埼玉県育ち。参議院議員秘書を経て、ビジネス系大手メディアの講演講師紹介事業に携わる。現在、株式会社ノビテクにて、ビジネスタレント講演事業を立ち上げ、コーディネーターとして活躍。安定感と奇抜さの両方を兼ね揃える提案バリエーションの豊富さで、数多くのコーディネート実績をもつ。多くの著名人との親交も深く、クライアントに合ったコンテンツ提供に定評がある。
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歴史上の人物から学ぶリーダー論、マネジメント論、危機管理、
そして、国内外の景気と株価を読む5つのポイントなどの講演ができる経済評論家 岡田 晃 講師のプロフィールはこちら