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遥美香子【第15回】ピョートル氏&増原氏 今問われる本当の『多様性』 – 【ノビテクマガジン倶楽部主催講演会】研修講師の書き下ろしreport
【コラムジャンル】
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2018年03月29日
2018年10月15日「世界最高のチームコンテスト」を開催。
プロノイアグループ株式会社 代表取締役 / モティファイ株式会社 取締役 チーフサイエンティストのピョートル・フェリクス・グジバチ氏と、LGBTコンサルタント/株式会社トロワ・クルール 代表取締役の増原裕子氏をお迎えした講演会「今問われる本当の『多様性』」の様子を研修講師 遥美香子氏がレポートいたします。
遥美香子(はるかみかこ)
<人材育成プロデューサー/オフィス・マードレ代表>
専門分野:プレゼンテーション、ロジカルシンキング、企業ブランド構築(CS/ES/マーケティング含む)、ハラスメント、コンプライアンス、アンガーマネジメント等。
1986年ミスさっぽろ受賞、札幌市親善大使として公務に従事。1991年から東京の民放局(TV)のニュースキャスター、出版広告界でのエディター&コピーライター等を経て、大手企業の社内研修講師に就く。2010年に独立し、企業や団体の人材育成プロジェクトを構築。企業での実務経験と実体験を生かした研修を得意とし、約10年間での研修受講者数は3万名以上に上る。趣味:江戸城跡でワープ(放心)。
ノビテクマガジン倶楽部が主催する講演会の様子を研修講師の遥がレポートいたします。
テーマは『今問われる「本当の多様性」』
経産省が推進する「ダイバーシティ経営」により、日本の企業や団体では、組織に「ダイバーシティ(多様性)」を浸透させるための取り組みが進められています。
私がダイバーシティをテーマにした企業研修を行う際、研修登壇時には、次のような質問が寄せられることがあります。
「ダイバーシティって結果として何が重要なのですか?」
「多様性を受け入れる必要性が本当にあるのですか?」
「多様性は日本文化を弱体化しかねない。日本文化をもっと守るべきでは?」等々。
これらの質問からは、「ダイバーシティ」経営へのモヤモヤっとした疑問や不安が感じ取れます。
おそらく、「ダイバーシティ」が実現した際の未来のビジョンがいまひとつ見えてこないからではないでしょうか。
組織に限らず、何ごとも未来の予測は立てられたとしても、実際に起こる事柄は100%断言できないものです。しかしながら、「ダイバーシティ」経営に関しては、多様な人材を擁する企業の発展ケースが顕著であることから、そのような企業の姿こそが良きロールモデルになると思います。
今回の講演では、ダイバーシティ経営に深く携わっている2名のゲストが〝本当の多様性”について語られていました。お二人が明かす事例はまさにリアルであり、納得させられることが多々ありました。
講演は三部構成で進行。
第一部は、多様性を生かした経営でも知られているGoogleで人材開発に携わっていたピョートル氏。
第二部は、ダイバーシティ経営におけるLGBT施策推進支援を行っている増原氏。
第三部は、小谷編集長を交えての3名によるパネルディスカッションが行われました。
[第一部・日本が向かうべき多様性社会とは]
ピョートル・フェリクス・グジバチ氏
「ダイバーシティって面倒くさいんです」と冒頭でおっしゃったピョートル氏。
ポーランドで生まれ、その後、ドイツ、オランダ、ベルギー、アメリカ、日本で暮らした経験を持つピョートル氏は、人生そのものが「ダイバーシティ」。だからこそ、冒頭の言葉にも説得力があります。
ダイバーシティを組織に根付かせるには時間がかかるし面倒。それでも、ダイバーシティが実現できれば、多様な人材のアイデアを生かした画期的なサービス(商品)を生み出し、事業が発展していく可能性は大きい。従業員の国籍や人種等が様々であり、多様な価値観をもった人材の集まりである企業として、フェイスブック、メルカリ、そしてピョートル氏が所属されていたGoogleの事例を紹介されていました。
「多様な人達の発想による、一見すると〝おろかなアイデア”が即ビジネス化されて、世界レベルの事業へと発展していったのです」(ピョートル氏)。
このような結果を生むためには、「(アイデア実行の)速さと創造性のかけ合せ。これはダイバーシティ環境がないと成り立ちません」とも。
そして、多様な価値観を持つ人達が、組織における「”心理的安全性”のもとに、自分らしく働けることも不可欠」としています。
「心理的安全性」とは、社員同士が互いに尊重し合い、信頼関係が築かれた環境であること。
「日本企業はトップダウン型の企業が多く、自分らしく働けるとはいいきれない。これから発展する企業は、ボトムアップ型で多様性を生かす環境作りが必要」とのピョートル氏の論点に、私は頷きが止まりませんでした。
しかし、トップダウン型からボトムアップ型へ変えるには、日本のビジネス文化そのものを変えるくらいの大きな波のような力が必要…とも感じました。
一方、ピョートル氏は日本の優れた点として「日本女性は最強です」と明言。
「日本女性の持つおもてなしの精神や気配り、人を立てる…といった能力は、人を動かす力としてリーダーシップに役立つ」とのこと。この評価に私が当てはまるかどうかはわかりかねますが、⽇本⼥性に備わっている能⼒も、多様性の中で生かされる貴重な力なのだと思いました。
[第二部・LGBTも働きやすい環境づくり]
増原裕子氏
「現在の日本人口のLGBT率は7.6%(13人に1人)、市場規模に例えると5.94億円」と語る増原氏。
セクシャルマイノリティの当事者として小学生のころからずっと悩みを抱えながらも、幾多の壁を乗り越え、現在はLGBTコンサルタントとして企業や団体等でLGBT施策推進支援をされています。講演では、ダイバーシティ時代におけるLGBT施策について、わかりやすく解説されていました。
LGBT施策とは、LGBTであることを理由に当事者を排除することや、ハラスメント(差別、いじめ、いやがらせ)の禁止、諸外国への人材配置における注意喚起等も含まれます。
日本の企業や団体における現在のLGBT施策は、世界規模では遅れており、「G7(先進7ヶ国)の中では日本はLGBT後進国」と増原氏。
つまり、日本の組織には、LGBT当事者の方々に対する環境が整っていないということです。
組織にとって、そして組織で働く人達にとって、LGBT施策を推進した先の未来のビジョンが見えにくいのかもしれません。
今回の講演で増原氏が掲げていた「LGBT施策に取り組む企業のメリット 採用面、生産性向上、離職防止の3点」は、そのビジョンとして理解しやすい内容でした。
LGBTであるということは、性的志向がマイノリティ(少数派)に該当するというだけで、仕事の能力や人格面でマイナスとなるようなことはありません。むしろ、能力がある人材でありながら、LGBTであることが理由で不採用とされたり、差別を受けて仕事ができなくなったり、職場にいられなくなったりすることは、組織にとって大きな損失です。
そのようなことが起こらぬよう、LGBT当事者が「安心して働ける」職場環境を整えていく企業は、結果として生産性が向上し、企業価値の向上にもつながっていきます。
「安心して働ける」ということは、ピョートル氏の講演にもあった「心理的安全性」を確保することと同じ。LGBT当事者にとっての「心理的安全性」を確保するためには、なにげなく会話の中で使っている言葉にも注意が必要であると増原氏は伝えていました。
「ホモ、レズ、オカマ、オネエは差別的な言葉です。それから、〝オマエ、そっち系じゃないの?“といった言い方にも嫌な思いをしている当事者がいます」。
このようなことを知らないままでいると、無自覚に笑いながら話してしまいがちです。
また、LGBT当事者が同僚等にカミングアウトした際には、「アウティングに注意をしてほしい」と繰り返し念を押していました。
アウティングとは、話された内容を、本人の了承なしに他者へ話してしまうこと。アウティングによって、LGBT当事者が職場にいられなくなってしまうケースもあるので最大の注意が必要です。
講演の終わりには、増原氏が「もうひとつお伝えしたいのは…」と次のように話されていました。
「LGBTは髪の色や肌の色と同じで、もともともっているもの(性質)。本人の意志では変えられないことです」。
この言葉に私は少し衝撃を覚えました。おそらく、大多数の人はLGBTがとても特別なことだと思っているのではないでしょうか。私もそうであったことに気がつきました。蔑んだり、嫌悪感といったものは100%ありませんが、髪の色や肌の色の違いと同じという感覚には至っていませんでした。
『「特別」ではなく、誰にでも備わっている性質のひとつであるということ。』
私自身のLGBTに対する認識がこの日をもって変わりました。
[第三部・パネルディスカッション]
第三部は、小谷編集長がファシリテーターとなり、「〝ダイバーシティ”をいかに自分ごとにしていくか」をテーマに3名でディスカッション。
左から増原裕子氏 ピョートル・フェリクス・グジバチ氏 ノビテクマガジン編集長・小谷奉美
“ダイバーシティ”実現のために、企業や団体が各施策を実行し、職場環境が変化していくことが期待されますが、働く個人それぞれができることは何か…等の意見が交わされました。
ピョートル⽒の話の中で印象的だったのは、
⼀緒に働く⼈達には”互いの⾃⼰開⽰”がとても⼤切だということ。
「⾃⼰開⽰といっても、⼤げさなものではありません。⽇常の⾃分の健康状態であるとか、⼈⽣においてのターニングポイントのエピソードや、自分の考えといった⼩さなカミングアウト。″マイクロカミングアウト”でいいのです」(ピョートル氏)
⾃⼰開⽰により、⼈には様々な価値観があることを知り、「多様性」を理解していけるということです。
そのためにも、⾃発的に教え合う時間の共有が必要だと話されていました。
ピョートル氏は、ポーランドにある人口50名ほどの村で生まれ、貧しい家庭環境や、実兄のアルコール中毒死、ドイツでの肉体労働経験等、現在のビジネスキャリアからは想像つかないような経歴を1冊目の自著で明かしています。その自己開示によって、自身の心が解放されたことと、自分のマイナス部分を人に明かすと、意外にも支援者が現れることもあると話していました。
「外資企業のハイパフォーマー(トップクラスの人材)は、マイノリティな部分などをカミングアウトして、自分らしく生きている人が多い」とも。
増原氏は、人材の多様性が進んでいない日本企業でのマイノリティ・カミングアウトに対しては、次のような注意を促す場面もありました。
「トップポジションの人と比べ、一般のポジションにいる人は仕事を失う恐れがあるため、マイノリティな問題をカミングアウトできないものです。だからこそ、カミングアウトできるような職場の環境作りを進めていくことが先決です」。
『今問われる「本当の多様性」』を実現するためには―
「多様性」を日本の企業に根づかせていくためには、組織×個人の両輪が共に動いていかなければ、絵に描いた餅に終わってしまう可能性もあることでしょう。
企業や団体の組織における縦横断的な取り組みが必須であること。そして、働く個人である各々が、多様性を他人事ではなく「自分のこと」としてとらえることも肝心要です。
余談ですが、私自身もあるカテゴリではマイノリティの枠に入ります。
ピョートル氏のようなグローバル人ではなく、LGBT当事者でもありませんが、
生涯未婚率14.1%(女性)の中にカウントされているひとりです。
”生涯”というので、80歳ベースのデータ収集かと思いきや、違うようです。
何歳からかはご自由に調べていただくとして…。
ということもあり、マイノリティである私は、100%自分ごととして「多様性」を尊重していますが、この記事を読まれているあなたは、「多様性」についてどのように感じられましたか?
懇親会
今回の懇親会でも、株式会社TCフォーラム様には素晴らしい会場を、株式会社ゴーン様には美味しいケータリング料理をご提供いただきました。
登壇者・参加者の皆さまがそれぞれに情報交換をされており、有意義な懇親会を過ごされておりました。