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石川邦子【第1回】「キャリア」とはその人の人生そのもの。「良いキャリア」も「悪いキャリア」もない。 – コレが私の生き方を決めた!
1回目となる今回は、キャリアコンサルタントの石川邦子氏に「キャリア」について解説いただきました。
この企画では、「コレが私の生き方を決めた!」と題し、様々なビジネスパーソンの方に、過去に起きた出来事から現在までを振り返っていただき、重大な決断をしたエピソードなどをうかがっていきます。
(※本記事は、2014年10月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。
記事中の年齢、肩書きなどは2014年取材時のものです。)
ナチュラルウィル有限会社 代表
石川 邦子 氏
元トランスコスモス株式会社 専務取締役。25歳で管理職、35歳で役員となり、人材の採用・教育に携わる。41歳の時に自分自身のキャリアを振り返り独立を決心し、カウンセラー・アロマセラピストの資格を取得。44歳で退職・起業する。現在は、カウンセリングとアロマセラピーによるストレスケアのサロンの経営と企業向け社員教育・講演などを中心に活動。自身の経験を踏まえ、キャリア形成や部下の管理・育成で悩んでいる方に部下と自分自身の無限の可能性に気づく提案を行っている。
一般社団法人 日本産業カウンセラー協会 シニア産業カウンセラー
国家資格 1級キャリア・コンサルティング技能士
「キャリア」はその人の人生そのもの。「良いキャリア」も「悪いキャリア」もない。
「キャリア」を辞書でひくと、「職業・技能上の経験。経歴」などと書かれています。確かに狭義の意味としてはそうかもしれませんが、私は人生そのものだと考えています。そして、キャリアには「良いキャリア」も「悪いキャリア」もないのです。私は、26年働いてきた会社を44歳で退職し、カウンセラー&研修講師&大学の講師として第2の人生を選択しました。
そのことについて学生などは「先生のキャリアは成功でしたか?失敗でしたか?」と正面切って質問してきます。その問いに対しての答えは
「成功だったか、失敗だったかは2つの人生を両方体験できないので答えられない。でも、少なくとも自分が選んだ人生でよかったと思えるようにエネルギーを使っている。他の選択肢のほうがよかったのでは?とクヨクヨしていても何も始まらない」
です。
時には後悔することもあるでしょうが、総体的に自分が納得できる人生であることが重要だと思います。そして色々な節目で自分の進む道に迷い悩んだときのために、キャリアについての考え方を身につけておくべきだと思うのです。なぜなら、普段からキャリアについて意識できていれば、多くの選択肢から選ぶことができ、選択肢の広がりはその人の未来の可能性を広げるのです。人の可能性というのは自分次第でとても大きくすることができます。
管理職になるチャンスを与えられる
私は、高校を卒業してすぐにトランスコスモス株式会社に入社して26年働いてきました。当初は2~3年働いたら結婚退職をして専業主婦になろうと思ってました。しかし、とても生意気だった私の可能性を見出して、管理職になるチャンスを与えてくれた上司がいました。そして、試行錯誤しながら人を育成・管理する仕事をしていくうちに、いつしか「人の可能性を広げる」ことに関わる喜びや、やりがいを感じるようになりました。
主力メンバーの異動願い
たとえば、あるチームの責任者をしていたとき、一番生産性の高いメンバーが社内公募をしていたプロジェクトに参加したいと希望してきました。そのAさんが抜けては、自チームの目標が達成できず、交代要員ももらえないなかで多くの残業が予測されました。そのため、当初その希望を私は握りつぶそうとしました(あってはならないことですが)。しかし、先輩管理職からの忠告などから渋々Aさんの異動を受け入れ、残ったメンバーに“Aさんの抜けた穴を埋めるためには、具体的には1人当たりどのぐらい生産性をあげる必要があるのか”を説明して協力を要請しました。
うれしい誤算
内心ではその生産性の目標はとても達成できないと考えており、かなり残業が増加するだろうと予想していたのですが、うれしい誤算があったのです。残ったメンバーは見事に私の提示した目標を上回る実績を出しました。この経験はAさんだけでなく、他のメンバーの可能性を広げる結果となり、管理職としての私の可能性も広げてくれました。
管理職の初心がもたらした効果
私は、管理職になったときに心に決めたことは「自分が部下だったときの気持ちを忘れない」ということです。
でも時にはその初心を忘れて、嫌な上司になってしまったこともありました。部下の意見も聴かず自分の価値観を無理やり押し付けてしまい大きなトラブルを発生させてしまいました。その後、初心に戻り部下と向きあったとき、それまで反抗的だった部下がとても素直な姿勢をみせてくれました。
「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」
この経験から、自分が変わることで相手との関係性を変えることができると学びました。アメリカの精神科医エリック・バーン氏の「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」という有名な言葉があります。まさしく、他人を変えることはできませんが、自分を変えることは自分次第であり、それによって相手との関係性は変わるのだと思います。
日頃からキャリアを意識できるような支援が必要
キャリアで有名な理論にスタンフォード大学のクランボルツ教授の「Planned Happenstance Theory(計画的偶発性理論)」があります。
たとえ、偶然に思える出来事でも、それは自分自身に何らかの偶然性を引き起こすような行動があり、その結果として偶然が発生したという考え方です。よく「棚からぼた餅」といいますが、ぼた餅が落ちてくるときにちゃんと棚の下に行けるように、教育担当の方や、リーダーの立ち位置の方は、日頃から社員の方々がキャリアを意識できるような支援が必要になってきます。
教育に携わるものの役割
納得のできる人生(キャリア)を創造していくために鍵となるのは3つのCha,Cha,Chaです。すなわち「Change・・・変化」、「Chance・・・好機」、「Challenge・・・挑戦」の3つをどう捉え行動につなげるかです。
たとえば、危機に遭遇したとき挑戦することで好機に変えていく、人生の節目で起こる変化を好機と捉えて挑戦する、それが、成長に繋がるのです。社員の方々が納得できる人生に向かって一歩踏み出し可能性を広げる支援をすること。それこそが、我々教育に携わるものの役割ではないでしょうか。