働き方・生き方
MANAGEMENT AND BUSINESS マネジメント・経営
伊藤邦雄【第1回】企業理念が内外の求心力に – インタビュー「理念は企業のぶれない軸」
理念は企業のぶれない軸
「共通の価値観である企業理念に立ち戻って、こだわることが重要」
東京証券取引所が主催する「企業価値向上表彰」において、選考委員会の座長を務めるなど、数多くの企業経営の分析実績を持つ、一橋大学大学院商学研究科の伊藤邦雄教授。そんな伊藤教授に、「経営理念」が企業やそこで働く人々にもたらす価値などについて、先駆的な企業の事例を踏まえながらうかがった。
岩崎知佳 ≫ インタビュー 田村知子 ≫ 文 櫻井健司 ≫ 写真
(※本記事は、2015年10月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
企業理念が内外の求心力に
― 伊藤先生はこれまで様々な企業の経営分析をされていますが、その中で「理念」という観点から評価されている企業の事例をうかがえますか。
私は2012年から東京証券取引所が主催する「企業価値向上表彰」で選考委員会の座長を務めています。この第3回大賞に選定したオムロン株式会社を、まずご紹介したいですね。
オムロンは現在、「企業理念経営」と、ROIC(投下資本利益率)*1を重要指標に位置づけた「ROIC経営」の両輪で、企業価値を飛躍的に高めています。これを牽引しているのが、現社長の山田義仁氏です。故・立石一真氏が創業したオムロンは、創業家による経営が長らく続き、それがいわば求心力になっていました。しかし、山田さんが社長に就任してからは、創業者の精神を引き継ぐ企業理念に求心力を求めたのです。
*1「Return On Invested Capital」の略で、投下資本利益率と訳す。事業のために投下している資本に対してどれだけの利益を生み出せているのかを示している。株主資本(純資産)に有利子負債を加えた額を投下資本とするのが一般的。これに対応する利益は、営業利益から税金を引いた額(税引き後営業利益)とすることが多い。
オムロンの企業理念は、創業者によって1959年に制定された社憲「われわれの働きでわれわれの生活を向上しよりよい社会をつくりましょう」を発展させ、同社が大切にする3つの価値観「ソーシャルニーズの創造」「絶えざるチャレンジ」「人間性の尊重」を加えたものです。
オムロンではこの企業理念を「判断や行動の拠り所であり、求心力であり、発展の原動力」とし、企業理念に基づく経営のスタンスを明言しています。山田さんは日本国内はもとより、海外拠点にも積極的に出向き、こうした理念とそれにひもづく取り組みを啓蒙。その成果を表彰するなどして、理念への意識やこだわりを高め、浸透させるよう努めています。経営者が自ら足を運び、理念について熱く語れば、内外の社員は理念の重要性を肌で感じますよね。
企業のグローバル化が進む今、理念が果たす役割は非常に大きいと思います。
企業のグローバル化が進む今、とくに海外では、理念が果たす役割は非常に大きいと思いますね。国籍も宗教も文化も異なる多様な人々が共に働くときには、共有できる何かがなければ、統率はできません。その共有できる何かが、まさしくこの理念なのです。理念が共有できていれば、あとは遠心力で思い切った取り組みを進めていくこともできるでしょう。
同質性だけでも、多様性だけでも、企業経営は成り立ちません。ですが、近年は多様性に目を向けるあまり、一体感が薄れている企業も見受けられます。そうした時にこそ、共通の価値観である企業理念に立ち戻って、こだわることが重要だと思いますね。
講師紹介
伊藤邦雄(いとう・くにお)
一橋大学大学院商学研究科教授 一橋大学CFO教育研究センター・センター長。1951年生まれ。1975年一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院商学研究科長・商学部長、一橋大学副学長を歴任。多数の企業で社外取締役を務める。『新・企業価値評価』『新・現代会計入門』『危機を超える経営-不測の事態、激変する市場にどう対応するか』(日本経済新聞出版社)など、著書多数。
講師への講演依頼はノビテクマガジンで!
マネジメント・経営・経済一橋大学大学院商学研究科 特任教授 伊藤邦雄 講師のプロフィールはこちら