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堤康之【第4回】確定申告の準備 – 公認会計士が書く!ついつい誰かに話したくなるお金のこと
確定申告! 終わったばかりですが、もう来年の話をしましょう。
今回は、確定申告の話です。本年度の確定申告も終わり、ほっとひと段落という人も多いかと思いますが、もう来年の確定申告の準備の話を始めます。
なんか大会が終わると同時に次への準備が始まるオリンピックアスリートみたいですね。でもそうなんです、確定申告は準備が大切!年が明けてからでは何の節税もできませんので、今から年末までが重要なのです。相続などと一緒ですね、どんなプロに頼もうとも死んでからでは相続対策など出来るわけはなく、死ぬ前に行うのが相続対策ですよね。確定申告も年が明ける前までに何をするかが重要です。
そもそも『 確定申告 』や『 年末調整 』って、よく聞くけど正確な意味って?
『 確定申告 』や『 年末調整 』ってよく聞くけど正確な意味を分かっていない人が多いのではないでしょうか?それでは、確定申告と年末調整の説明から始めましょう。
個人事業主などが行う所得税の『確定申告』やサラリーマンが勤め先で年末に行う『年末調整』は、いずれも個人が国に収めるべき一年分の税金(所得税)の額を確定させる作業です。個人が収める所得税は、実は収入の多寡だけでなく、家族構成や医療費や各種保険の支出などの、個々人の状況を加味して計算が行われています。
個人事業主の場合は、毎年1月1日から12月31日までの事業の収益・費用などを、翌年の2月16日から3月15日までの間に税務署に申告をする必要があります。これにより個人事業主が、昨年度に稼いだ利益(所得)に対して収めるべき税額が確定し、税金を支払うことになります。
毎年2月くらいになると、テレビCMやポスターでタレントさんを起用して「確定申告をしましょう!」とアピールが始まるのをなんとなく覚えていますよね!それです。この時期は一年で一番税務署が忙しくなり、確定申告の作成を請け負う税理士も同様に一年で一番疲弊している時期です(私も毎年この時期になると同僚税理士の、私に近づくな!話しかけるな!というピリピリとしたオーラを感じています)。
個人事業主などが、1年間(1月1日から12月31日まで)の稼ぎ(所得)の計算
について、翌年の2月16日から3月15日までに税務署に申告をし、税金を
納付する制度
他方、サラリーマンは、毎月の給与から税金(所得税)が既に天引きされていますよね(多くの方が手取り額は気にするけど、税金の額は気にしていないと思いますが..)。
これは税金の徴収をより効率的に行うための仕組みであり、個人事業主は自ら計算をして(または税理士に計算を依頼して)、前年一年分の税金計算を確定し、翌年に税務署に申告しているのに対し、サラリーマンは、毎月の給与から家族構成などに応じて決まった税額を、事前に差し引かれて月給をもらっています(会社があなたに替わってあなたの税金を税務署に納付しているということです)。
しかし、税額の計算は一年間の給与に対して計算されるのですが、事前に毎月の給与から天引きされている税金(給与所得の源泉徴収という)は、年度内に家族構成に変更があった場合や生命保険の支払いなどの事情が反映されていません。そこで年末に『年末調整』という差額調整計算を行い、正しい税額となるよう精算を行っているのです。
サラリーマンなどの給与所得者が、毎月支払っている税金(会社が給与より
天引きし納付している源泉所得税)の1年間(1月1日から12月31日まで)の
税額が適正となるように、年末に行う税額の調整計算
個人事業主は、年が明けてからの『確定申告』により税額の申告と納税を行っているのに対して、サラリーマンは月々の『源泉徴収』と『年末調整』によって納税を行っているわけです。
確定申告のポイントとは?
さて、ここからは個人事業主の確定申告のポイントについてです。
既に確定申告を行っている人はお分かりの事ですが、稼ぎ(所得)は「収入-経費」で計算されるので、経費が多ければ稼ぎ(所得)が減り、支払う税金の額も少なくて済みます。
最大のポイントは経費を漏れなく(いっぱい)計上するということなので、個人事業主は経費として申告できる領収書をせっせと集めがちなわけです。皆さんの周りの個人事業主の方で「領収書下さい!」を乱発する人いますよね、こういう理由です。
では、さっそく今年の確定申告をされた方は、以下のチェックリストで自分は何ができて、何ができていないかを振り返ってみましょう。
✔ 経費は全て漏れなく計上しましたか?
✔ 家事費と按分可能な経費を検討しましたか?
✔ 社会保険料、生命保険料、医療費、寄付金などの各種控除は計上しましたか?
✔ ふるさと納税は行いましたか?(前コラム参照)
以上、全部 ✔ が付いた方は、普段から自分の税金まで考えて支出を行っている方ですね。
この中で特に誤解が多そうなものについて少し説明を加えておきます。
稼ぎ(所得)は「収入-経費」、税金を安くするには経費は漏れなく
(いっぱい)計上する!
医療費控除は普段のレシート集めから!
医療費控除制度は、高額な医療費を負担した人に対しては、医療費の一部を所得額から控除するという制度です。基本的には年間の医療費負担が10万円を超える人が対象となります。
忘れてしまいがちなのが、必ずしも病院などの医療機関にかかった場合だけでなく、ドラッグストアで市販薬を購入した場合も控除の対象となります。また、生計を同じくする家族分の医療費も合算することができ、奥さんや子供の医療費と合わせて総額で10万円を超えればあなたの確定申告から控除ができるので、家族分の医療費の明細もしっかりとっておきましょう。
個人事業主だけでなく、サラリーマンなどの給与所得者でも、医療費控除の条件に当てはまれば確定申告をすることで控除が可能です。持病で通院している家族がいる場合や、病気や怪我で手術を受けた年などは、医療費控除が受けられる可能性が大きいので、普段から家族の医療費の明細は一括して管理しておくよう習慣づけておくと良いですね。
経費の範囲は?
また、小規模個人事業主が特に迷うのが、事業費と家事費(家計費)との按分ですよね。
「知り合いの個人事業主はとにかく何でもかんでも事業費として、経費に入れているんだけど..(私も入れてもいいよね?)」などはよく受ける相談です。
何処までが事業経費でどこからが家事費かは、各々の実態で判断するしかありません。税務署から説明を求められたときにきちんと説明ができるように、「形式と理屈」を整えておくことが重要です。
自宅で仕事をしている個人事業主の場合は、家賃や水道光熱費や通信費などは当然に経費按分していますよね?その他にも仕事で車を使っている人は、車両関係費も按分対象となりますので見直してみて下さい。
領収書がないので、仕事関係の「ご祝儀」「お香典」を経費としてない方もいますが、仕事上の関係で生じた「ご祝儀」や「お香典」も経費とすることができます。
案内状に金額と日付を記載して領収証がわりにして下さい。金額なんて証拠がないから何とでも書けちゃうのでは? と疑問に思う方がいるかと思います。その通りです、でもくれぐれも水増しなんてしないように!
ビジネススーツは?
また、最近よく話題となるのがビジネススーツ! 個人事業主の場合、ビジネススーツはプライベートの場でも使えるので経費にはならないというのが従来からの解釈です。
詳細は省きますが、サラリーマンの必要経費としてビジネススーツが含まれるという解釈がなされたことから、個人事業主でも認められてしかるべきとの意見が大きくなってきています。従来はノーだったものがグレーゾーンになってきた感がありますが、まだ必ず認められるとまでは言い切れないのが現状です。
飲食と領収書
サラリーマンから個人事業主になった時に一番変わるのが飲食関係の領収書ですよね。サラリーマン時代は、オフィシャルな接待でないと会社からは経費として認められなかったのが、個人事業主となると、仕事上の打合せや飲食などで何かと経費計上する割合が多くなるのが実情でしょう。
仕事上の打合せや接待での飲食は、領収書の保管がポイントです。領収書は手書きの領収書でなくともレシートでもかまいません。出金した記録としての証拠能力があればよく、宛名、日付、金額、発行者、内容が分かるということが要件です。その他に、それが仕事上の経費であることを残すため、同席した相手先の名前(会社名)と人数を記載しておくとよいでしょう。
このように、基本的には「事業を運営するために必要な支出」は全て経費にできる理屈ですが、判断が難しいグレーな部分もあり、経費として計上できるか否かは個別具体的に判断するしかありません。業種や収支に応じても、経費と認められる範囲は変わってきますし、税務調査があった場合は調査官の心証も判断に影響してしまいます。
「常識的に」判断すること、それと「領収書などの形式」をきちっと整えておくことが重要になってきます。くれぐれも脱税行為と疑われないように気をつけましょう!
以上、今回は分かっているようで分かっていない『確定申告』と『年末調整』、また確定申告で迷いやすい経費の範囲についてのお話しでした。
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