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HUMAN RESOURCE DEVELOPMENT 人材育成
岩崎究香【第1回】感覚的な学びを積み重ねる – 古き良き伝統文化と美が息づく花柳界のOJT
【コラムジャンル】
OJT , お座敷文化 , リーダー , 伝統文化 , 古き , 学び , 岩崎究香 , 息づく , 感覚的 , 積み重ねる , 第1回 , 美 , 育成 , 舞妓 , 良き , 花柳界 , 連載
2015年02月24日
『感覚的な学びとでも言いましょうか、座学では絶対に学べないものがあるのは一般的なビジネスでも同様だと思います。』
日本の伝統文化と美を色濃く受け継ぐ京都・祇園で、100年に一度の逸材と謳われた岩崎究香さん。
15歳で舞妓としてデビューし、6年間連続売上ナンバーワンの記録を作ったこともある。
29歳で現役を引退するまでに経験してきたお座敷での数々の出来事や見習い時代のエピソードから、あらゆるビジネスに通ずる現場指導のヒントを探った。
❝感覚的な学び❞を積み重ねる
私が岩崎の家に養女として引き取られたのは4歳の時でした。岩崎家は舞妓・芸妓を抱える置屋(*1)を営んでおり、当時、私の姉を含む八人の舞妓・芸妓がいました。ですが姉二人は岩崎家の跡取りとしては目されておらず、たまたま女将が私に目を付けて養女にしたいと強く望んだことから、岩崎の跡取り娘として迎えられることになりました。
*1 舞妓・芸妓を抱え、居住させる家のこと。生活の場。
数えの6歳から京舞井上流の舞を習い始め、その他にも茶道や華道、三味線などのお稽古を重ね、舞妓になるための試験を受けたのは15歳の時でした。合格すると、舞妓デビューの前に約1カ月の見習い期間があります。舞妓の衣装は「だらりの帯」と言って、とても長い帯が特徴。一方見習い期間の帯は「半だらり」。この衣装を身に着けて実際にお座敷にあがり、舞妓デビューに向けて実地で訓練を行います。いわゆる「OJT」ですね。私も初日は本当に緊張して、お辞儀をしたりお酌をしたりする手が震えているのが自分でわかるほどでした。
見習い期間には次のようなことを学びます。部屋への入り方、挨拶の仕方、話の仕方、お酒の運び方、注ぎ方、そしてお料理の配膳の段取りです。配膳の段取りとは、お客様の食事のペースに合わせて最適なタイミングでお食事を提供するということ。花柳界の商売は細かく分業されていて、お座敷の場を提供するのがお茶屋さん(*2)、お料理を作るのは仕出し屋さん、そして料理を配膳し場を仕切るおもてなしの係が仲居さんと私たち舞妓・芸妓です。いわゆる個人事業主ですから、ただお客様の前でニコニコしていれば済むわけではありません。お客様の食事の様子を見て、「食事が進んでいないからお造りはいったん下げて後から出し直そう」とか「ペースが早いから、早く持ってきてくれるように仕出し屋さんに連絡しよう」などと判断するのです。現場の最前線でお客様と直に接している立場として、様々な配慮を働かせて場をうまく切り盛りすることが求められます。このような段取りや配慮の感覚は何度も何度もお座敷に出ることで養われていくのです。
*2 お客が舞妓や芸妓を呼んで食事や芸の鑑賞を楽しむ店。財界人にとって重要な社交の場の一つとされている。
ごく最初の頃にはお客様から「盃が空になったらお酒を注ぐんだよ」なんて基本的なことも教わりましたが、基本的には人から何かを教わるというよりも、お座敷の経験を積むことによって自分で判断力を培っていったような気がします。感覚的な学びとでも言いましょうか、座学では絶対に学べないものがあるのは一般的なビジネスでも同様だと思います。初めての場で緊張してしまうのは誰にでもあること。ですから、周囲で支える先輩や上司たちは躍起になってダメ出しをするのではなく、本人の自発的な学びを温かい目で見守ってあげるといいのではないかと思います。
お座敷では舞を披露したりお話もしますが、実はビジネスにおける重要なシーンでお座敷の場が活用されます。大事な商談や接待の場として機能していますので、新製品の企画、企業の合併、株価の話などが飛び交います。
また、時には芸妓は別のお部屋にいらっしゃるお客様同士をつなぐ仲介役にもなります。もちろん、露骨に対面させるような野暮な真似は致しません。お茶屋さんやお客様に仲介を頼まれると、二次会へご案内する時にさりげなくその二組を同じ店の同じお座敷に誘導するのです。大事なビジネスチャンスの場をさりげなくしつらえるのも私たちの重要な役目の一つなのです。
(※本記事は、2014年4月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
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