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室山哲也【第3回】気候変動にどう向き合うか – NHKクローズアップ現代 元NHK科学番組チーフプロデューサー室山哲也の世の中観測
【コラムジャンル】
NHK , クローズアップ , チーフ , どう向き合う , プロデューサー , 世の中 , 元 , 室山哲也 , 気候変動 , 現代 , 番組 , 科学 , 第3回 , 観測
2018年10月08日
NHKクローズアップ現代 元NHK科学番組チーフプロデューサー室山哲也の世の中観測
「地球温暖化に直面する今こそ、子供に対して自然や生命について考えさせ、健康な人類に戻す絶好のチャンス」
NHKクローズアップ現代など、元NHK科学番組のチーフプロデューサーを務めた室山哲也講師が「温暖化」「ダイバーシティ社会」「AI」「自動運転」をキーワードに、科学ジャーナリストの視点で世の中を観測した書き下ろし講師コラムです。
気候変動にどう向き合うか
異常気象が、世界的に頻発しています。日本でも、経験したことのないような豪雨で河川が氾濫したり、見たことのないコースで台風が進んだり、深層崩壊などの山崩れが増えています。原因の根本には、地球温暖化による気候変動があるとされており、異常気象が予測しにくくなり、被害の幅が大きくなっていることも指摘されています。
しかし、「今年の猛暑は温暖化のせいですか?」と問われれば、即座にイエスとは言えません。温暖化は地球の平均気温を上昇させ、水の蒸発量を増やし、水循環を活発化させて、熱波、寒波、豪雨、干ばつなどの異常気象を増加させはしますが、一つ一つの気象現象に直結させることはできないのです。筋トレでパワーアップした大リーガーのバッターが、ホームランを20本多く打ったとしても、どのホームランが筋トレによるものか答えられないのと同じです。
地球温暖化は、異常気象全体を底上げし、より大規模に、長期的に影響を及ぼしていくため、個別の災害よりも、もっと深刻な脅威ともいえるものです。
人類に多大な影響を及ぼす気候変動
オックスフォード大学が2015年に発表した「人類滅亡12のシナリオ」を見ると、人類滅亡の原因として「核戦争」「新興感染症」「生態系崩壊」「グローバル経済での国際システム崩壊」「バイオハザード」「ナノテク」「巨大隕石」など様々なことが並んでいますが、一番目に「気候変動」が挙げられています。
IPCCによると、地球温暖化は、極地での海氷の縮小、海水面の上昇、台風の強大化、サンゴ礁の縮小、豪雨や干ばつの増加などをもたらすが、影響はすでに始まっているとしています。このまま対策をせずにいると、2100年には世界の平均気温は最大4.8度上昇し、海面も世界平均で82センチ上昇するともしています。日本の場合、60センチ程度の上昇で、砂浜の85%が消滅するという報告もあり、より大規模のことが、世界規模で起きることになります。
この影響は、特に途上国で深刻で、強大化した台風がもたらす高潮で、甚大な被害が出ると予想されます。気候変動は、農業や漁業などの一次産業を混乱させ、国際経済、政治を混乱させ、予測不能な事態を引き起こすかもしれません。
地球温暖化問題を考えるとき、どのような視点に立てばいいのでしょうか?
地球温暖化問題を考える視点
温室効果ガスの排出を減らすために、低炭素型エネルギーを導入し、省エネを進め、持続可能な循環型社会になっていくことは、もちろん重要です。しかし、そのような社会に変化していくために、市民の意識はどうに変わればいいでしょうか?
世界の平均気温の変化のグラフを見てみましょう。
赤の帯は、今後、特に新しい温暖化対策をしないときの、平均気温の予測です。
青の帯は、可能な限りの厳しい温暖化対策をした場合です。
2100年では大きく気温上昇の差が出ますが、これから20年ほどは、あまり気温の差がわかりません。すでに年配の人から見れば、今後、温暖化対策をしようが、しまいが、気温上昇の差はあまりないのです(いずれにしても上昇し、被害は出る)。しかし、2100年に生まれる子供から見ると、天地ほどの差が出ます。
温暖化は、ゆっくりと、大規模に影響が広がり、長い時間をかけて進行するため、一人一人の認識では、実感しにくく、想像力を働かせなければ理解しにくいのです。「自分の世代ではなく子や孫の世代の問題」を、現代に生きる我々がどのようにとらえ、取り組むか、その倫理観や世界観、想像力が問われているのです。
温暖化について議論した子供の言葉
教育の在り方についても、もっと真剣に考える必要があります。私はNHKの子供番組で、5年間キャスターをしましたが、温暖化について子供と議論して、感じたことがあります。
私が温暖化について質問すると、子供は実によく知っています。「温暖化は温室効果ガスを削減しなければ止まらない」「低炭素型経済」などの言葉です。しかし話をすすめると、「我慢が大切」とか、「苦しいけど頑張ろう」といった言葉が出てきます。私の経験では、我慢を基にする取り組みで成功した例を、あまり知りません(ダイエットも同じ?)。
「渋谷までタクシーに乗りたいけど、仕方なく歩いたり自転車にする」とか、「エレベーターに乗りたいけど仕方なく階段を上がる」とかの言葉ではなく、自転車に乗ったら風がさわやかだったとか、汗が出たら爽快になったという言葉がなぜでないのでしょうか?ふと見ると、犬もハアハア言って、体温を下げている。人間は汗をかいて下げる。すると涼しくなった!生きているってすごいよね!体を使うって楽しいよね!という言葉こそ、子供が言うべき言葉なのです。
地球温暖化に直面した今だからこそ必要な教育
教育的に見ると、地球温暖化に直面する今こそ、子供に対して自然や生命について考えさせ、健康な人類に戻す絶好のチャンスでもあるのです。もしも、子供たちが環境に対する認識を変え、持続可能で、自然と共に切る社会が、いかに素晴らしいかを感じ取る人間になれたら、「楽しみながら」「前向きに」「新しい認識を持った市民として」前進できるのではないでしょうか?
地球温暖化を克服するために、既存の文明を変えることが必要ならば、私たち市民の心も変わる必要があります。地球と共に生きること、自然のリズムを大切にすること、豊かな自然に感動すること、この当たり前のことに気付き、息の長い取り組みを可能にする発想が、今こそ必要なのかもしれません。
NHKクローズアップ現代 元NHK科学番組チーフプロデューサー室山哲也の世の中観測(了)
講師紹介
室山哲也(むろやま てつや)
日本科学技術ジャーナリスト会議副会長、元NHK解説主幹、大正大学客員教授、東京都市大学特別教授、科学ジャーナリスト プロデューサー。
テクノロジー、生命・脳科学、地球環境問題、宇宙開発など、「人類と科学技術文明」をテーマに論説を行い、子供向け科学番組「科学大好き土よう塾」(教育テレビ)の塾長として科学教育にも尽力。