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山本衣奈子 - 「伝える」から「伝わる」へ  一方通行が双方向のやりとりへと変わるコミュニケーションの極意

山本衣奈子 – 「伝える」から「伝わる」へ

山本 衣奈子

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2024年11月13日

山本衣奈子 - 「伝える」から「伝わる」へ  一方通行が双方向のやりとりへと変わるコミュニケーションの極意

「表現が少し違うだけでこんなに反応が変わるのか」。演劇で培った「表現」の力を活かし、伝わるコミュニケーションやプレゼンテ―ションを伝授する山本衣奈子氏。「伝える」から「伝わる」に変えるための極意と、表現の違いがもたらす影響について聞いた。

(※本記事は、2022年9月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)

村上杏菜 ≫ 文  波多野匠 ≫ 写真

山本衣奈子(やまもと・えなこ)

山本衣奈子

E-ComWorks株式会社 代表取締役
プレゼンテーション・プランナー

高校時代から演劇に没頭し、玉川大学在学中にロンドン大学に演劇留学。サービス業から接客業・受付業務・営業・クレーム応対まで30社以上に勤務。のべ5万人を超える人とのかかわりから、円滑なコミュニケーションの極意を見いだす。2007年より研修講師としての活動を開始。「伝わるように伝えるコミュニケーション術・プレゼン術」を確立し、年間200回近い企業研修、講演を行う。「表現方法が多彩になるだけでなく、モチベーションも上がる」と、リピート依頼多数。

「伝える」と「伝わる」は違う

「何度言ってもわかってくれない」「相手が何を考えているかわからない」など、コミュニケーションに悩みを持つ人は多い。

「『伝える』は一方通行、『伝わる』は双方向のやりとりです。表現しても相手に届かなければ意味がありません」

と話すのは、「伝わる表現アドバイザー」として年間200回近い研修や講演をこなす山本氏。こちらの意図が相手にきちんと届くような表現を意識することが必要だという。

「とはいっても、気をつけるべき点が多すぎると意識しきれません。そこで、『伝わるように伝える』表現のポイントを凝縮したものが『3つのS』です」

演劇という総合芸術の世界で表現について学んだ後、多種多様な現場に身を置くことで「表現する」ことと「伝わる」ことの関連性を検証してきた山本氏。人と人のやりとりから気づいた表現のポイントを、実社会に活かせるよう言語化したノウハウが『3つのS』だ。意識することでコミュニケーションの質が格段に向上するという。

「『3つのS』とは『ストレート』『シンプル』『スマイル』です。1つ目のS『ストレート』とは、心根をまっすぐ持ち、ブレない姿勢でいること。〝何でも聞いて〞と言っておきながら、質問されると〝自分で考えて〞と答えてしまうことがあります。心理学では『ダブルバインド(二重拘束)』といい、矛盾した2つのメッセージが相手にストレスを与えます。言うことや姿勢がブレる人には、耳を貸したくありませんよね」

だが、自分の姿勢が一貫していないことに気づくのは難しい。矛盾しているとは思いつつ「時と場合による」と考えることもありそうだ。

「ブレることがある、という前提でいることが大事です。まずは自分の中でスタンスをはっきり決めましょう。〝何でも聞いて〞と言うのなら、どんなときにも質問を受け入れる。ただし、永久に同じスタンスでいるべきというわけではありません。変えたい時には〝そろそろ自分で考えるフェーズに移ってほしいから、今回は自分で考えてみようか〞と、スタンスを変えることを宣言すればいいのです」

山本衣奈子

人が人に求めているのは「当たり前」のこと。自分なりにできることから 始めよう

よい結果を望むならそれにふさわしい言葉を

2つ目のSは『シンプル』。

「日本語はニュアンス言語と言われているように、表現の幅が広いため曖昧になりがちです。『空気を読む』といいますが、自分が空気に含めた意味と相手が空気から読み取った意味が一致するとは限りません。だからこそ、シンプルな表現の仕方を意識して日本語を使ってほしいのです。たとえば、人に何かを依頼するときに『あなたでいい』と言うのと『あなたがいい』と言うのでは、たった1文字の違いにもかかわらず、受け取る印象が全く変わります。また、命令・否定の言葉に、人は思わず反発したくなります。『廊下を走るな』よりも『廊下は静かに歩きましょう』のほうが、抵抗感なく受け入れられやすいのです」

同じ意味合いでも、ちょっとした表現の違いで相手の自己効力感を高めることができる。

よりよいコミュニケーションのために、よりよい表現を選ぶ。このようなシンプルな前提を大事にしてほしいというのが山本氏からのアドバイスだ。

そして、3つめ目Sは『スマイル』。

「コミュニケーションに大事なのは安心感です。組織の生産性を高めるポイントは心理的安全性と言われていますね。同じ言葉でも、笑顔で言うのか真顔で言うかではずいぶん印象が違います。言語・聴覚・視覚情報の影響について説明した『メラビアンの法則』でも、言語情報が7%、聴覚情報が38%に対し、視覚情報が55%と一番影響力が大きいと言われています。また、ベストセラー『置かれた場所で咲きなさい』(幻冬社)の著者でありシスターの故・渡辺和子さんも『不機嫌は立派な環境破壊』との言葉を残しています。少し口角を上げるだけで醸し出す空気は簡単に変わります」

笑顔に慣れていない人や、笑顔になりたくても「楽しいことなんてない」と思う人は、1日の中で1回でも多く「ありがとう」という言葉を使うようにするといいそうだ。

「『ありがとう』を言うとき、人は柔らかい表情になります。無理に笑顔をつくるよりも『ありがとう』と言う回数を増やしてみてください。コツは『すみません』を『ありがとう』に置き換えること。日本人はお礼を言うべきタイミングで『すみません』と言いがちです。『すみません』に笑顔の効果は少ないので、『ありがとう』にしましょう」

山本氏によると、人が1日に鏡を見る時間はおよそ10分前後。24時間のうち、わずかそれだけしか自分の顔を見ていないのだ。残りの時間の多くは他人があなたの顔を見て過ごす。そう考えると、自分の表情についてどうでもいいというわけにはいかないだろう。

表現を選ぶのはよりよいコミュニケーションのため

山本氏が表現やコミュニケーションの世界に足を踏み入れたのは、高校時代に演劇部に所属したことがきっかけだったという。

「当時は役者になりたいと思っていたのです。大学でも演劇を専攻し、在学中にロンドン大学ゴールドスミス・カレッジの演劇科へ留学もしました。ですが、そのうち自分が興味があるのは『演じる』ことではなく『表現』だと気づいて。演劇の世界でちょっとした表現の違いによって観客の反応が大きく変わるのが面白いなと思っていました。表現とは人と人のやりとりです。演劇で学んだ表現手法は実社会でも活かせるのではないかと思いました」

それまで演劇の世界にどっぷりつかって過ごしてきた山本氏。

「いろいろな世界と社会を見てみたい」

と、あえて定職に就かずにさまざまな業界と職種を経験した。ツアー添乗員、秘書、データ入力、営業、接客、クレーム応対など、10年間でおよそ30社以上に勤務したという。講師業に転じたのは、サービス業の会社を経営していた知人から

「山本さんって演劇をやっていたんだよね?声の出し方について社員研修をしてもらえないだろうか」

と声をかけられたのがきっかけだった。

「声で人を振り向かせるための腹式呼吸や発声方法を教えました。私としてはあまりに当たり前のものだったので、これが誰かの役に立つ技術だなんて全く思っていなくて。ところが、頼んでくれた知人も受講者たちもすごく喜んでくれて驚きました。これをきっかけにいろいろなところから講師を頼まれるようになったのです」

自分が教えている発声や表現は、

「よりよいコミュニケーションをとるため」

のものだと気づいた山本氏。演劇で学んだ知識やさまざまな業界での就業経験に加え、あらためてコミュニケーションについて書籍やセミナー等で学び直し、心理学やカウンセリングの知識や手法も取り入れながら、実社会で活かせるコミュニケーションとプレゼンテーションのノウハウを確立してきた。

「表現やコミュニケーションは知れば知るほど奥深く、ゴールがありません。さらに高いレベルで世の中に還元し続けていきたい」

あらゆるものがオフラインからオンラインへ移行し、「当たり前」が当たり前でなくなったコロナ禍。山本氏に対する企業のニーズにも、ちょっとした変化を感じているという。

「コミュニケーションについてあらためて考え直す機会が増え、原点回帰の流れを感じます。最近多いご要望のテーマは『挨拶』。挨拶はコミュニケーションの基本のキですが、新入社員研修でしか学びません。結局、人が人に求めているのは、挨拶のような当たり前のことなんです」

コミュニケーションに悩む人は、難しく考えすぎる傾向があると山本氏は感じている。

「自分なりにできること、当たり前を大事にするだけで周りの反応は変わります。1日1回『ありがとう』を増やすだけでいい。今日『ありがとう』を言えた自分を褒めてあげられたらいいですね」

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受講者からは「表現方法が多彩になるだけでなく、モチベーションも上がる」と評判になり、リピート依頼多数。
山本依奈子
E-ComWorks株式会社 代表取締役
プレゼンテーション・プランナー
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