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株式会社ispace【第2回】「ミッション」に人が集まり、プロジェクトが生まれる – ”個“のスキルが集結する。宇宙という夢に向かって。
【コラムジャンル】
HAKUTO , ispace , スキル , プロジェクト , ミッション , 中村貴裕 , 人 , 個 , 夢 , 宇宙 , 株式会社 , 生まれる , 秋元衆平 , 第2回 , 集まり , 集結
2017年11月24日
「壮大なミッションとそれに同調する人の”思い“が原動力であるHAKUTOらしさ」
「『夢みたい』を現実に。」と、HAKUTOは言う。
月を自由に旅する時代がいつか来る。その未来への確かな一歩が、世界初の民間による月面探査レース。
国籍もキャリアもスキルも異なる多様なメンバーが揃うチームを運営する株式会社ispaceに、未来を現実のものにする組織のあり方についてのヒントを得る。
小谷奉美 ≫ インタビュー 村上杏菜 ≫ 文 櫻井健司 ≫ 写真
(※本記事は、2017年7月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
「ミッション」に人が集まり、プロジェクトが生まれる
異なるバックグラウンドを持つ人材の集まる同チームの運営のポイントは4つある。
1 明確で壮大なミッション
「レースで優勝すること、これが今の一番のミッションです。しかし先に『宇宙船が飛び交うような世界を作りたい』という代表の袴田の志があったからこそ、宇宙への思いに同調するメンバーが集まってきた。袴田はぐいぐい引っ張っていくリーダーというよりは、信念を持ちながらも周りの意見によく耳を傾けるタイプです」(中村氏)
現代のようなVUCA※と言われる予測不能な時代に、どのような困難があっても志を掲げ続けてチームを導き、周囲の意見に耳を傾け協働していくリーダーの存在が、新しい形の組織には必要不可欠なのだろう。
※「VUCA」とは、Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をつなぎ合わせた造語で、現在の社会環境が予測困難であるという時代認識を表す言葉。
2 ミッションベースのホラクラシー型組織
さらに、従来の階層型と違い、ミッションから発生したプロジェクトに対して人材がコミットするという組織の形がHAKUTOの特徴でもある。
「アメーバ状の組織とでも言えばいいのでしょうか。レースで優勝するという目的を実現するためには技術、資金、運用面で様々な課題、つまりミッションが発生します。そこに対して各々のスキルを活かそうと集まってきた人たちが主体となって、プロジェクト単位で自走するのです」(中村氏)
3 マネージメントは黒子に徹する
チームをマネージメントする立場として気をつけているのはデリゲーション(権限委譲)。メンバーを信頼し、任せることを常に意識する。
「マネージメントの役割はあくまで世話人であって、ミッションの主体者はメンバーです。予算や交渉関係の課題解決のために介入することはありますが、基本的には黒子に徹しています」(中村氏)
4 「できないこと」より「できること」を考える
デリゲーションにより、プロジェクト単位のスピード感やメンバーの意欲も向上しやすい。特にプロボノは無報酬のボランティア集団でもある。モチベーションの管理には常に心を配るという。
「提案に対して否定せず、まずは受け入れてみようという姿勢でいます。私自身が袴田らと取り組んできたなかで、無理・不可能と思えることでも『できない』じゃなくて『できる』方法を考えるのがHAKUTOというチームのあり方だと感じた。それが私にとっては一番のモチベーションになったんです」(秋元氏)
「宇宙開発への興味」「本業でできないことを叶えるため」「他のメンバーとのかかわりの楽しさ」など、モチベーションは人によって異なるという。そのうえで本人の提案やチャレンジ意欲を尊重し、その結果としての成果にはMVP表彰で応えている。
「『Most Valuable“Pro bono”』。これに選ばれると、袴田との食事と(笑)、ロケットの打ち上げに同行できる権利が得られます。2カ月に1度選出しているので最終的には全メンバーがこの権利を得ることになる可能性があります(笑)」(秋元氏)
裏返せば、全員を打ち上げの場に連れていきたいということだろう。壮大なミッションとそれに同調する人の”思い“が原動力であるHAKUTOらしさが表れているエピソードだ。
株式会社ispace
『Google Lunar XPRIZE』への参加を目的に2010 年に欧州チームが設立した『WhiteLabel Space』が前身。2013年、運営母体である欧州チームの撤退を受け、ボランティアとして参加していた現代表の袴田武史が引き継ぎチーム名を『HAKUTO』に変更。同時に株式会社化しispaceを設立。レースが終了した後も水資源の開発を中心とした宇宙開発ビジネスを視野に入れ活動を続ける。
中村貴裕(なかむら・たかひろ)
東京大学大学院で惑星科学を修了後、新卒で大手外資系コンサルティング会社に入社。6年ほどの勤務ののち、大手情報サービス会社の新規事業開発室に転職。自ら企画・立案した事業の立ち上げを経験し、2015年から現職。
秋元衆平(あきもと・しゅうへい)
大学卒業後、ロンドン留学。語学を学びながら日系出版社に勤務し、帰国後は総合PR会社、事業会社広報に勤務。2010年よりプロボノとしてチーム「HAKUTO」の広報・プロモーションを担当。2016年から現職。組織への柔軟なかかわり方が、企業と人に多様性をもたらす。