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森山佐恵 – 後悔する前に知ってほしい、患者さんたちが教えてくれた「人生で大事なこと」
【コラムジャンル】
ノビテクマガジン主催講演会 , メンタルヘルス , 介護カレンダー , 健康寿命 , 森山佐恵 , 生活習慣予防 , 生活習慣研究所 , 看護師 , 講演講師
2023年09月12日
森山佐恵 - 後悔する前に知ってほしい、患者さんたちが教えてくれた「人生で大事なこと」
失ってから気づく、健康のありがたみ。「もっと早く気づけないものか」という思いで看護師と講演家のダブルワーク生活を20年以上続けてきた生活習慣研究所の所長、森山佐恵氏。 看護師生活40年のなかで出会ったたくさんの患者から教わった「人生で大事なこと」をメッセンジャーとして伝え続けてきた。ストレス社会をエネルギッシュに生き抜く術を森山氏に学ぶ。
(※本記事は、2023年9月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。)
村上杏菜 ≫ 文 波多野 匠 ≫ 写真
森山佐恵(もりやま・さえ)
生活習慣研究所 所長
看護師として医療現場の最前線で40年間過ごしてきた経験をもとに、生活習慣病の無関心さに警笛を鳴らし続ける。生活習慣研究所所長として「生活習慣病予防促進」「ビジネス社会でのメンタルヘルスケア指導」「認知症の啓蒙と予防生活指導」に尽力し、医療現場で培われた経験に基づく講演・セミナー・研修を各地で20年以上開催。現代人の健康管理からストレス、介護保険、高齢化問題など、品のいい大阪弁でユーモアたっぷりに語る様子が好評を博している。2000年より「介護カレンダー」の監修も手がける。
倒れる前に知ってほしい
看護師と講演家のダブルワークを20年以上続けてきた森山佐恵氏。二足のわらじを履いたのは、 ある男性患者とその家族に出会ったことがきっかけだったという。
「その男性、まだ40代前半なのに脳出血で倒れて病院に運びこまれたんです。社長をしていたそうですが、目も見えなくなり、半身不随、 失語症、さらには人工透析も必要という、かなりヘビーな状態に。奥様は会社の後始末に追われ、家計は火の車。まだ小さなお子さんを抱えて『今日から住むところがない』という状況に陥ったんです」
幸い、この親子は森山氏の口利きによって身を寄せる先を確保できたという。しかし、「病気は本人が苦しむだけでなく周りを不幸にしてしまうこともある」と改めて病気の恐ろしさを痛感した森山氏。
生活習慣病で倒れる人が後を絶たないことからも「元気なうちに病気を予防するための知識を身につける必要がある」と考え、今でいうRIZAP(ライザップ) に似た事業を起こした。しかし、軌道に乗せることができずに借金だけがかさんでいく。
そんななか、地域の健康セミナーで講師役を務めた際、明るいキャラクターとざっくばらんなトークが好評を博したことから講師業に舵を切ることに。最初の受注までには100社以上へ足を運ぶなどの苦労をしたそうだが、現在では人気講師として歴23年、700件以上の実績を築いている。
「今すぐできること」を伝える
講演ではなるべく難しい話をせず、看護師生活で出会った患者たちから学んだことを伝える役割に徹しているそうだ。
「患者さんって、たとえ言葉を話せなくても醸し出しているメッセージがたくさんあるんですよ。生き死にたくさん接してきましたけど、死にざまから生きざまがわかるように思うんです」
悔しい思いをする人たちを病院でたくさん見てきた森山氏が伝えたいのは「病気を予防する」ことの重要性。しかし、皮肉にも、元気な人ほど聞く耳を持ってくれないことが多いという。
「元気な人ほど『それどころじゃないんだよ』『何言ってるの、そんなことを考えている暇なんかないよ』と言うんです。そんな人に健康行動を起こしてもらうにはどうすればいいのか。簡単ですぐにできること、今日も明日もできるようなことを伝えるんです」
たとえば、貧乏ゆすり。「今この場で、両足で貧乏ゆすりをしてみてください」と話すとみんながやってみてくれるというが、意外と上手にできない人も多い。
「貧乏ゆすりってけっこう難しいんですよ。実はね、太ももの前面にある『大腿四頭筋』の働きが必要なんです。この筋肉が弱ってくると貧乏ゆすりもできなくなります。筋肉を動かすと血流がよくなります。心は脳にありますから、脳みその血流がよくなったら心も元気になる。さっそく明日からオフィスで貧乏ゆすりをしてみてください。『あの人、だいぶストレスたまってるな』って思われるかもしらんけど」
ユーモアたっぷりの大阪弁で生活習慣病、自殺、高齢化問題、認知症など、幅広いテーマで啓蒙を続けている。
「高齢化が進んで定年延長も現実的なものになってきて、会社としても個人としても『健康寿命を伸ばし、元気に長く働くためには?』といったテーマへの関心は強いです。以前は50代に向けた講演が多かったですが、 最近は前倒しで30・40代向けの依頼も増えています。
おそらく、投資に興味を持つ人が増えたからではないでしょうか。お金を増やすには本業以外に何かしなければいけない。それは元気でなければできません。以前は『健康投資』という言葉を伝えてもあまり響いている感じがしませんでしたが、やっと健康への投資、つまり予防の重要性が理解されてきたように思います。長期にわたる人生設計を求められるだけあって、最近のビジネスパーソンは健康への意識が非常に高く、真剣に人生を考えていますよね」
ストレス社会を軽やかに生きる
講師業を20年以上続けるなかで、常に求められ続けてきた講演テーマがあるという。
「ストレス関係です。最初の頃は『みんな、そんなに苦しんでるの?』なんて思っていましたが、実は私の夫もうつ病になったんです。『誰やねん、心の風邪なんて軽々しく言ったのは』と思いましたよ。そんなに簡単に治らなかったんです。夫の場合は2年くらいかかりました」
家族がうつ病を患った経験を通じ、ストレス社会の深刻さを実感した森山氏。「ストレスに強くなる」「ストレスに対抗して効率的に働く」などのテーマで伝えているメッセージの一端を、ここで紹介してもらおう。
「『○○しなきゃいけない』って思うと、パワーが出なくなりませんか?私、最近やっと気づいたんです。毎日『今日しなきゃいけないこと』を紙に書き出していたんですが、『今日したいこと』を書いたほうがやる気が出るんですよ。現実的にやらなきゃいけないことも書くんですが、そのリストの中に『ビールを飲む』『美味しいものを食べる』があったほうがやる気が出る。こんなことに気づくのに私は何十年もかかりましたけど、みなさんにはもっと早く気づいてもらえたらと思い、お話ししています」
「したいこと」 を思いつかないほど疲れている人もいるかもしれない。
「そういう人に必要なのは自分と向き合うことです。カーナビが目的地に連れていってくれるのは『現在地』を入力するから。まずは現在地を知る必要があるんです。今の自分を知るためには、百円均一で売っている付箋でいいので1枚につき1つ、頭の中にあることを全部書き出してみてください。『あの人嫌い』『私かわいい』『旅行したい』でも何でもいいです。全部書き出したら、少しだけ振り返りをしましょう。なんとなく眺めながら『自分、こんなこと思っていたのか』『いつからこんなことを考えてたっけ?』など、心の整理をしてみてください。何か気づくことがあるはずです。ちなみに、嫌なことを書いた付箋はビリビリに破って捨てたらスッキリします」
出会いがなければ変化も成長もない
現代社会ではいろいろなしがらみや都合に振り回され、思うように生きられないことも多い。
「『やりたいことがあるのに○○のせいでできない』『どうせ自分なんて』と何かのせいにしたり自己卑下したりするのは、自分を大事にしないことにつながると思うんです。就職でも結婚でも、首に縄を付けられて強制されるわけじゃない。人の意見に左右されずに自分で決断し、それに対してどう覚悟を決めていけるか。それが本当の意味で自分を大事にすることではないでしょうか。劣等感も孤独感も、人に『持ちなさい』と強要されているわけではないんです」
決めるのは自分。人生は一度きり。挑戦し続けることを忘れてほしくないと森山氏は言う。 そんな同氏は現在、長年の夢だった「日本一周」をキャピングカーで実現中だ。
「看護師生活も40年の節目を迎えましたから、リフレッシュ期間をとりたいなと思って。もちろん、講演の依頼があれば飛行機で日本全国どこでも駆けつけています。日本一周が終わったらまた看護師に戻るつもりです。80歳までの現役を目指しているんです」
人生は人との出会いありき。出会いがなければ変化も成長もない、という思いが森山氏の活動と生き方を支えている。
「人との出会いで今の私があります。患者さんからも本当にたくさんのことを教わりました。『人間関係が面倒で』という人も多いですが、人との交わりをそんなに怖がらなくても大丈夫。煩わしいことや面倒なこともありますが、人間関係は自分の人生に学びとヒントをくれるものです」