働き方・生き方

「キャリアはただ積むだけでは意味がなく、そこに自分なりの創意工夫を凝らしてこそ活きてくるもの。」

「アバウトな夢は見なかった」。簡単に実践できる方法で確かな美を手に入れる術を発信し続けてきた佐伯チズさん。誰もが羨むようなキャリアを収めてきたように見える一方で、その背景には憧れを現実のものにする強い意志、そして幼少時からのトライ＆エラーの積み重ねがあった。

佐々木信行 ≫ 写真　村上杏菜 ≫ 文

（※本記事は、2017年4月1日発行のノビテクマガジンに掲載された記事を再構成しました。）

仕事はというと、高校は被服科を出ましたが、すぐに洋裁の道は向いていないと思いました。茶道や華道で身を立てるのも難しいと感じ、映画俳優に憧れて東映に写真を送ったこともありますが書類選考で落ちちゃいました。結局、電話交換手の免許を取り親の勧めでミノルタ（現コニカミノルタ株式会社）に就職しましたが、「なんでつながらないんだ！」とお客様に怒られるのが嫌だったのと、同僚の女性たちが冴えない感じだったのが私には合わなくて、退職して東京の美容学校に行くことを思いつきました。ご縁あって牛山美容文化学園に入学したのは20歳の時です。

興味があればやってみる、合わなければ方向転換。その切り替えと、目的を達成するために「自分から動く」ことが大事ではないかしら。インターンでは、牛山喜久子先生の所属する銀座の店舗に配属されたくて、他の生徒がやりたがるパーマやカットではなくシャンプー技術をひたすら磨いて即戦力をアピール。晴れて銀座の店舗へ配属されると、牛山先生の髪染め担当になるためにカラーリング技術を特訓したり、優れた上司や先輩のアシスタントに指名されるために利き手とは反対の左手を器用に使えるよう訓練してアシスト技術を高めたりしました。何事も、おとなしく引っ込んでいて得られるものなんてありません。私の場合、全部自分から行動してゲットしてきたことばかり。自分から近づいて、見て、聞いて、学んできたのです。

ディオールでスタッフの育成を務めた時も、膨大な仕事に追われる毎日でしたが、自分に求められていることが明確にわかっていたし、それが私のやりたいことだったから頑張れた。もっと良い肩書きやお給料の話もありましたけど、そんなのは関係なくて、ただそこに私のやりたいことがあったからやっていた、それが全てです。

経験を積むだけでは意味がない。そこに”創意工夫”が加わって、初めて自分流のキャリアになる。

自分のことは自分が一番よくわかっているはず。好きだと思えなければ続かないし、頑張れない。向いていないと思えば方向転換すれば良いのです。キャリアはただ積むだけでは意味がなく、そこに自分なりの創意工夫を凝らしてこそ活きてくるもの。五感を使ってしっかり勉強と経験を積み、自分の仕事に責任を持つ、それが私の思い描く理想のキャリアの築き方です。

佐伯チズ インタビュー「行動せずに得られるものはなし！憧れに向かって突き進み、夢を掴みとる」
キャリアを真剣に考える（了）

講師紹介

佐伯チズ（さえき・ちず）
1943年生まれ。OLを経て美容学校、美容室に勤務し、フランス化粧品メーカー・ゲランに入社。その後結婚や渡米を経てパルファン・クリスチャン・ディオールのインターナショナルトレーニングマネージャーに就任。同社を定年退職後、エステティックサロン「サロンドール マ・ボーテ」を開業。さらに美容理念と佐伯式美容理論を提供する場、「佐伯式美肌塾チャモロジースクール」を開校。美容家として雑誌、テレビ、ラジオ、講演など様々な場で活動。「頼るな化粧品！ -顔を洗うのをおやめなさい！」「美肌革命」（講談社）、「キレイの躾」（世界文化社）などの著書も多数。

ご紹介している佐伯チヅさんが、2020年6月5日に筋萎縮性側索硬化症（ALS）のため、お亡くなりになりました。心から佐伯チズさんのご冥福をお祈り申し上げます。